【TOB事例】NTTドコモによる住信SBIネット銀行TOBの概要・特徴と今後NTTがTOBする可能性のある銘柄候補

【TOB事例】NTTドコモによる住信SBIネット銀行TOBの概要・特徴と今後NTTがTOBする可能性のある銘柄候補

NTTドコモ(NTTグループ傘下)は、住信SBIネット銀行株式会社(東証スタンダード上場)に対して株式公開買付け(TOB)を実施し、発行済株式の約3分の2の取得を目指す方針を固めました。このTOBにより住信SBIネット銀行を子会社化し、最終的には非公開化(上場廃止)する計画です。

今回は住信SBIネット銀行のTOBの概要および今後予想されるNTT関連のTOB銘柄について考察してみたいと思います。

住信SBIネット銀行へのTOB: 背景と概要

TOB価格は1株あたり4,900円で、2025年5月28日時点の終値(3,285円)に対して約49.16%のプレミアムが設定されています。公開買付期間は2025年5月30日から7月10日までと発表されました。買付予定数の下限・上限は設けられておらず、応募株はすべて買付けられる予定です。

TOBの目的と背景として、ドコモは通信事業の成長鈍化を受けて金融・決済分野への進出を長年模索しており、銀行業参入により決済・投資・融資・保険を一体提供する戦略があります。他の通信大手は既に銀行を傘下に持ち、自社経済圏を構築しています(例:ソフトバンクはPayPay銀行、KDDIはauじぶん銀行、楽天は楽天銀行)。ドコモはこれまで銀行を持たず出遅れていたため、住信SBIネット銀行の買収は「金融サービス強化による総合サービス化」を狙ったものです。

関係各社の動きとして、現在住信SBIネット銀行株の約34%ずつを保有する主要株主のSBIホールディングス(以下SBIHD)と三井住友信託銀行(以下SMTB)は、本TOBに協力する姿勢を示しています。SBIHDは保有する全株式をドコモに売却し、これによりSBIHDは約3300億円残るSBI新生銀行への公的資金返済資金を確保する狙いがあります。

一方、SMTBはTOB後も株主として残留し、引き続き同ネット銀行と提携関係を維持する方針です。実際、今回の取引ではSBIHD保有株はドコモに譲渡され、SMTB保有株は応募しない契約(不応募合意)を結んだ上で、ドコモがその他の全株式を取得する形が予定されています。この結果、TOB完了後はドコモ約66%、SMTB約34%の株主構成となり、少数株主がいない形で株式の上場廃止が見込まれています。

さらにNTTドコモおよび親会社のNTTは、本件に関連して広範な業務・資本提携を発表しました。NTTドコモは住信SBIネット銀行およびSMTBとの間で銀行業に関する業務提携契約を締結し、同時にSBIHDおよびSBI証券との間でも金融サービス連携のための業務提携契約を結びました。またNTT(親会社)はSBIHDとの資本業務提携契約も締結し、SBIHDに対して出資を行うことで通信と金融の連携を強化しています。

このように、本TOBは単なる株式取得にとどまらず、銀行・証券を巻き込んだ包括的な提携関係構築が図られている点が特徴です。

今回のTOBの特徴

今回の住信SBIネット銀行に対するTOBには、以下のような特徴が指摘できます:

  • 主要株主との事前合意による友好的買収: TOB開始前に主要株主であるSBIHDとSMTB双方と合意を取り付け、SBIHD株は全て取得、SMTB株は非応募とする契約を結ぶことで買収を円滑に進めています。これにより敵対的要素のない友好的なTOBとなっており、対象会社の取締役会もTOBに賛同し応募を株主に推奨する姿勢です。
  • 業務提携を通じた非公開化: 単なる株式取得だけでなく、NTTドコモ・住信SBIネット銀行・SMTBの3社間およびNTTドコモ・住信SBIネット銀行・SBIHD・SBI証券の4社間で業務提携契約を結んでいます。既存株主と新株主(ドコモ)が提携関係を結びつつ共同で事業シナジーを追求し、その上で上場廃止(非公開化)するという枠組みになっています。このように戦略的提携と非公開化をセットにしたスキームは特徴的です。
  • 少数株主の扱いと保護策: 本TOBではSMTB以外の全株式取得を目指しており、TOB後はドコモ66%、SMTB34%の株主構成になる計画です。少数株主が実質的に残らない形ですが、万一TOBに応じない株主が残存した場合でも上場廃止は進められる見込みです(浮動株比率低下により上場維持基準を満たさなくなるため)。住信SBIネット銀行側でも、少数株主への対応について必要があれば株式売渡請求などの法的手段を含め検討する旨が示唆されており、少数株主の権利に配慮した手続きを取る準備がなされています(応募推奨の開示において言及)。このように少数株主の保護策にも言及しつつ進められる点は、近年のMBO/TOBにおける公正性確保の流れを踏襲しています。
  • プレミアム水準の高さ: 提示されたTOB価格4,900円は、直前株価に約5割もの上乗せとなる高いプレミアム水準です。これは少数株主に十分な売却インセンティブを与えることで応募を促し、円滑に非公開化を実現する狙いと考えられます。プレミアムの高さはTOB成功可能性を高める一方、買収コスト増にもなるため、NTTドコモが本取引に戦略的価値を強く見出していることの裏付けといえます。

以上のように、今回のTOBは「主要株主との協調による友好的TOB」「業務提携を伴う戦略的買収」「高プレミアムで少数株主にも配慮した非公開化」といった特徴を備えています。

NTTグループによるTOBが予想される企業

上記のような特徴(業務提携に基づく友好的買収、主要株主との事前合意、非公開化によるシナジー追求等)を備えており、将来的にNTTまたはNTTグループ関連企業がTOBを仕掛ける可能性がある上場企業として、いくつかピックアップをしてみたいと思います。

それぞれについて現在の事業特性・市場ポジション、株主構成や資本提携状況、NTT傘下に入るシナジー、TOBされる可能性の高さと理由を検討します。

マネックスグループ株式会社

事業特性と市場での立ち位置

マネックスグループネット証券大手の一角で、個人向け株式・投資サービスを提供しています。証券口座数は約220万口座に上り、新NISA開始などでオンライン証券市場の成長期待が高まる中、業界中堅から上位に位置する独立系ネット証券です。近年は仮想通貨取引(コインチェック)や海外事業にも展開し、フィンテック色の強い多角化を図っています。

株主構成と資本提携の有無

創業経営者の松本大CEOを中心に独立系の株主構成でしたが、NTTドコモと2023年に資本業務提携を結びました。ドコモはマネックス証券の新設中間持株会社に約49%出資する形で資本参加し、現在マネックス証券事業のほぼ半分を握る戦略的株主です。提携契約ではマネックス証券の独立性やブランドを尊重する形となっており、ドコモは筆頭株主ではあるものの議決権比率を50%未満に抑えています。主要株主にドコモを迎えたことで、NTTグループとの強固な資本関係が構築されています。

非公開化やNTT傘下入りによるシナジー

ドコモは約9,600万の会員基盤を有し、マネックス証券との提携でdポイントやdカードによる投資サービス連携を進めています。完全にNTTドコモ傘下に入れば、銀行(住信SBIネット銀行)+証券(マネックス)+決済(d払い等)を一体運営でき、金融ワンストップサービスの提供が加速するでしょう。例えばドコモユーザーに株式投資や資産運用サービスを容易に提供し、携帯料金やポイントと連動したキャンペーンを実施するなど、よりシームレスなユーザー体験を創出できます。NTT側にとっても、他社(KDDIや楽天)が自前の証券会社と連携し顧客基盤拡大に成功している中、自社傘下に証券を完全統合することは金融事業強化の切り札となり得ます。

TOBされる可能性と理由

現状では資本業務提携により十分連携が図られているため、短期的にTOBで完全子会社化する可能性は中程度と考えられます。NTTドコモは本提携に際しマネックス証券の経営独立性を尊重するとしており、直ちに残り株式を買い増す意図は示していません。しかし、中長期的には市場環境や競争状況によってTOBに踏み切る可能性も否定できません。他の通信キャリアが金融子会社をフル活用している中、ドコモが金融事業をグループ内に取り込み一層のシナジーを出すためには、最終的にマネックスグループ全体を傘下に収める選択肢も考えられます。特に提携効果が顕著で、更なる迅速な意思決定が必要になった場合や、第三者による買収リスクに備える場合には、友好的TOBでの完全子会社化に動く可能性は十分あるでしょう。

スカパーJSATホールディングス株式会社

事業特性と市場での立ち位置

スカパーJSATホールディングス日本最大の衛星通信事業者であり、通信衛星・放送衛星を多数保有してテレビ放送(スカパー!)やデータ通信サービスを提供しています。近年は宇宙事業の新展開として、高高度プラットフォーム(HAPS)や低軌道衛星を活用したBeyond5G/6G向けの宇宙通信インフラにも注力しています。国内では独占的地位に近い衛星インフラ企業で、官民の需要を背景に安定した事業基盤を有します。一方、衛星打ち上げや新規プロジェクトには巨額の投資が必要で、NTTのようなパートナーとの協業が進んでいます。

株主構成と資本提携の有無

筆頭株主は伊藤忠商事とフジテレビの共同出資会社(約25.7%)で、次いで信託銀行(9.0%)、NTTコミュニケーションズ(NTTグループ)が約8.8%を保有する第3位株主となっています。他にも日本テレビ(7.0%)やTBS(6.2%)といったメディア各社が出資し、衛星放送との関係性を反映した株主構成です。NTTとは2021年に業務提携契約を結び、両社50:50出資で合弁会社「Space Compass」を設立して宇宙データ通信網事業を共同推進中です。NTTグループ(NTTコミュニケーションズ)が主要株主に名を連ね、かつ事業面でも深い協業関係にあります。

非公開化またはNTT傘下入りによるシナジー

NTTにとって宇宙空間を活用した次世代通信インフラは戦略分野であり、スカパーJSATとの協働は不可欠です。完全傘下入りすれば、地上網(NTTドコモの携帯ネット等)と宇宙網(衛星・HAPS)を一体運用でき、災害時の通信バックアップや離島・山間部へのサービス提供などで強みを発揮できます。またNTTの光通信技術とJSATの衛星運用技術を組み合わせ、全球規模で高速通信網を構築することも視野に入ります。NTTはすでにJSATとのJVで宇宙データセンター構想を進めており、グローバル市場での競争力確保のためにもグループ内資源の最適配置が望ましい局面が来る可能性があります。仮に非公開化すれば、巨額投資を要する宇宙事業において機動的な意思決定と長期視点の経営が可能となり、NTTグループ全体でのシナジー最大化が期待できます。

TOBされる可能性の高さと理由

現時点で伊藤忠・フジテレビという安定株主がおり、NTTも合弁を通じて協業できているため、短期的なTOBの可能性はそれほど高くありませんしかし中長期的には、宇宙事業の重要性が増すにつれNTTが支配権を握る必要性が高まればTOBの選択肢が浮上します。

例えば、海外勢との競争激化や国家安全保障上の要請から、NTT主導で宇宙インフラを整備する必要が生じた場合です。NTTコミュニケーションズが約8.8%を保有し主要株主の一角であることから、NTT側からの働きかけによる友好的買収は技術的に可能です。伊藤忠商事や放送各社との利害調整がつけば、戦略投資としてNTTが残り株式を買い増し完全子会社化するシナリオも考えられます。Space Compassでの協業が成果を上げ、より緊密な経営統合が双方に利益と判断されれば、TOB実施の可能性は十分にあるでしょう。

オールアバウト

事業概要と市場での立ち位置

オールアバウト生活情報ポータル「All About」を運営するインターネットメディア企業です。各分野の専門ガイドが記事を執筆する信頼性の高い情報サイトとして知られ、幅広いジャンルの暮らし・趣味情報を提供しています。近年はEC支援やマーケティング事業にも展開し、総合的なデジタルメディアグループへ成長を図っています。ユーザー規模こそYahoo!やLINEニュースなどメガプラットフォームに及びませんが、専門性の高いコンテンツで一定の支持を集める中堅ネットメディア企業です。

株主構成と資本提携状況

オールアバウトはNTTドコモが発行済株式の約15%を保有する主要株主(第2位株主)です。これは2018年にドコモと資本業務提携を結んだ際、大株主だった大日本印刷(DNP)から株式15.47%を譲り受けたものです。この資本提携により、ドコモのポータルサイト「dメニュー」等とAll About記事の相互送客や広告商品開発などメディア連携が進められてきました。一方、筆頭株主は日本テレビ放送網(日テレ)で約24%を保有しており、他にもリクルートやDNPが株主に名を連ねます。つまり放送(日本テレビ)と通信(ドコモ)の大手が株主となっているメディア企業です。

非公開化/NTT傘下入りによるシナジー

ドコモがオールアバウトを傘下に収めれば、自社経済圏におけるコンテンツ発信力・広告事業力の強化につながります。具体的には、ドコモの持つ数千万規模のdポイント会員基盤とAll Aboutの良質なコンテンツを掛け合わせ、会員データに基づくターゲティング広告やEコマース連携を推進できるでしょう。現在もdメニューからAll About記事への送客はありますが、完全子会社化すれば両サービスの統合も容易になり、ユーザーの回遊性向上やポイント誘導がシームレスになります。

また、競合他社(ソフトバンクはYahoo!ニュース・LINEを傘下、KDDIもナショナルジオグラフィック日本版やGunosyに出資)の動向を見ても、通信事業者が自前のメディアを持つことは顧客エンゲージメント戦略上重要です。オールアバウトを非公開化してグループ内メディア事業として育成することで、ドコモは他社に対抗しうる独自コンテンツ発信力を得られます。さらにAll Aboutが持つ専門家ネットワークを活かし、ドコモのスマートライフ領域(例:医療・教育・旅行など)での情報提供サービスを拡充するシナジーも期待できます。

TOBの可能性と理由

NTTドコモは既に出資・提携関係にあり、オールアバウト社内にも取締役派遣など一定の影響力を持っていると推測されます。完全子会社化のハードルとしては、日本テレビなど他の大株主との利害調整がありますが、日テレも放送コンテンツとネット連携を重視しており、ドコモとの協業メリットを見出せれば売却に応じる可能性はあります(あるいはNTTと日テレが共同でTOBを行い非公開化するシナリオも考えられます)。

時価総額は数百億円規模と小さいため、TOB資金の負担は問題になりません。ドコモがメディア事業をどこまで自前化したいかによりますが、競争環境的に見てTOBの可能性は十分にありますとりわけソフトバンク(ヤフー・LINE)やKDDI(テレビ朝日と資本提携)に比べ、ドコモのメディア露出は遅れを取っているとの指摘もあります。その巻き返し策としてオールアバウトの完全子会社化→ドコモポータルとの統合強化は現実味を帯びてくるでしょう。現状は友好的提携に留まっていますが、中長期的にはNTTグループ内への取り込みを検討しても不思議ではない状況です。

検討3社の概要とTOB可能性の比較

企業名主要事業・特性NTTとの資本/業務関係TOB実施の可能性
マネックスグループ独立系ネット証券・フィンテックドコモが証券子会社に49%出資。業務提携で資産運用サービス協働。中期的に可能性あり(提携深化次第)
スカパーJSATホールディングス衛星通信・宇宙インフラ事業NTTコミュが8.8%保有。JV「Space Compass」で協業。中長期的にあり(宇宙事業の戦略度次第)
オールアバウトインターネットメディア運営NTTが約15%保有。相互送客や広告商品開発などメディア連携中期的に可能性あり(提携深化次第)

各社ともNTTグループとの連携を深めており、状況次第で友好的TOBによる傘下化が検討される可能性を持っています。ただし、その実現性は提携関係の成熟度や外部環境に左右されるため、引き続き各社の動向とNTTの戦略を注視する必要があります。

まとめ

近年、NTTグループによるTOBが活発化しています。直近では、NTTデータのTOBもありました。今後も成長に向けて足りなピースをTOBで取得していく可能性が高いといえるため、NTTの動きには目が離せません。

今回の記事のように、NTTが投資対象にしていたり、提携している企業について調査をしてみるのも面白いのではないでしょうか。

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