【TOB事例】日本コンセプトのプライベート・エクイティ主導のMBO概要と今後のMBO候補銘柄

【TOB事例】日本コンセプトのプライベート・エクイティ主導のMBO概要と今後のMBO候補銘柄

日本コンセプト株式会社(東証プライム・証券コード9386)は2025年6月30日経営陣によるMBO(マネジメント・バイアウト)の一環として株式の公開買付け(TOB)実施を発表しました。買付け主体はMBO実行のために設立された特別目的会社「株式会社M」(以下、買付者)であり、独立系投資ファンドのJ-STAR株式会社が資金提供する買収スキームです。

今回は、この日本コンセプトのTOBについて確認してみます。

TOB概要

  • 買付者(公開買付け者):株式会社M(2025年1月設立の買収目的会社。J-STAR関係者出資のJSHD合同会社が全株式を保有)
  • 公開買付価格1株あたり金3,060円(6月30日終値2,231円に対し約37%のプレミアム
  • 買付け期間:2025年7月1日(火)~8月13日(水)の30営業日
  • 買付予定株数:9,845,975株(下限5,223,400株、上限設定なし)
    • 補足: 最大株数9,845,975株は、発行済株式総数13,868,500株から自己株式725株と商船三井保有株4,021,800株を除いた数に相当します。応募株数が下限の5,223,400株に満たない場合は買付け不成立(全部不成立)となり、下限以上の場合は全応募株式の買付けが行われます。上限を設けていないため、買付者は事実上対象株式の全数取得を目指すTOBと言えます。
  • 決済開始日:2025年8月20日(水)
  • 公開買付代理人:東海東京証券株式会社(復代理人:マネックス証券株式会社)

本TOB価格3,060円で全株(商船三井保有分を除く)を取得できた場合、TOB総額は約300億円規模になります。また、このTOBと並行して筆頭株主である商船三井の持株も取得し、最終的に非公開化(上場廃止)する計画であることが発表時に明らかにされています。

背景と目的

今回の公開買付けは、日本コンセプトを株式市場から非公開化(プライベート化)することを主目的としたものです。

買付者となる株式会社Mは2025年1月14日に設立されており、東京証券取引所プライム市場に上場する日本コンセプト株式を全て取得・所有することを目的としています。設立時点では買付者MおよびスポンサーであるJ-STAR側は日本コンセプト株式を一切保有していません。J-STAR株式会社(独立系PEファンド運営会社)の役職員出資により設立された合同会社JSHDが当初M社の全株式を保有し、本TOB成立後にその持株はJ-STAR運営ファンドへ譲渡される予定です。

本取引は経営陣が関与するMBO(Management Buyout)に該当します。日本コンセプト代表取締役社長の松元孝義氏は主要株主(第2位株主)でもあり、TOB発表時点で同氏個人で21.17%(2,935,200株)を保有していました。松元氏は本TOBに応募して保有株式を売却した後、買付者Mに出資し経営陣として引き続き同社の経営に当たる予定です。実際、松元氏はMBO成立後も代表取締役社長として経営を継続する計画であると発表されています。

一方、買付者Mに資金提供するJ-STAR株式会社は、中堅企業への投資育成を手掛ける独立系ファンドであり、本件ではスポンサーとしてMBOを主導します。松元社長とJ-STAR系ファンドは、本取引完了後の運営方針や出資比率などについて株主間契約を締結済みであり、MBO後の経営体制について相互に合意がなされています。

公式発表では、本MBOの目的を「中長期的な企業価値向上の実現」などに置いており、上場廃止によって四半期ごとの株価変動に左右されない機動的な経営判断や成長投資の推進が可能になる点が強調されています。J-STARの支援の下、非公開化後に中長期視点で事業価値を高めることが本MBOの狙いと言えるでしょう。

特有の特徴(株式併合・自己株式取得・価格決定プロセス 等)

今回のMBO/TOBスキームには、一般株主・経営陣・大株主それぞれの立場に配慮したいくつかの特徴的な仕組みが導入されています。以下に主なポイントを解説します。

株式併合による少数株主の整理

TOB成立後、買付者Mと筆頭株主である商船三井だけが株主として残るよう株式併合(会社法第180条に基づく株式の併合)が実施される予定です。これによりTOBに応募しなかった少数株主は併合比率の調整によって端数株式となり、所定の手続きにより現金が交付される見込みです。

株式併合の目的は、日本コンセプトの株主を買付者Mと筆頭株主の商船三井(所有割合29.00%)のみにすることにあります。この手続きを経て少数株主が整理されれば、買付者Mによる完全子会社化(全株式の取得)が容易になります。株式併合の議案は後述の通り主要株主の賛同の下で可決される見通しであり、これが承認されれば日本コンセプト株式は上場廃止に向けた手続きが進むことになります。

商船三井との取り決めと自己株式取得

日本コンセプトの筆頭株主である株式会社商船三井(発行株の29%相当を保有)とは、本TOBに応募しないことを事前に合意する公開買付不応募契約を締結済みです。商船三井はTOBには応募せず、代わりにTOB後の株主総会で株式併合(および単元株制度廃止の定款変更)に賛成し、株式併合の効力発生後に日本コンセプトが商船三井保有株式を自己株式として買い取るという取り決めになっています。

この自己株式取得による商船三井保有株の買付け価格は、1株あたり2,572円(併合前換算)に設定されました。この金額は、仮に商船三井がTOB価格3,060円で株式を売却した場合の税引後手取り額と、自己株式取得(自社株買い)に応じた場合の税引後手取り額が同程度になるよう算定されたものです。

つまり、税務上の優遇(みなし配当の益金不算入)を考慮した調整価格となっており、この工夫によって一般株主へのTOB価格をできるだけ引き上げつつ、商船三井を含む株主間の公平性にも配慮しています。商船三井はこの自己株式取得により最終的に日本コンセプト株式を全て処分し、本取引から退出することになります。

経営陣(松元社長)とスポンサー(J-STAR)の株主間契約

経営陣サイドでは、日本コンセプトの松元孝義社長個人および同氏の資産管理会社である有限会社エムアンドエム(両者合計で約23.33%=3,235,200株を保有)が、保有する全株式を本TOBに応募する契約(公開買付応募契約)を買付者Mとの間で締結しています。松元氏およびエムアンドエムの応募株式数合計3,235,200株は発行済み株式の23.33%に相当し、これにより経営陣は自社株の売却によって一定の資金を確保します。

その上で、松元氏は本TOBの決済完了後に売却代金の一部を原資としてM社に再出資を行う予定です。同時に、買付者Mの運営や株式取扱い等に関して、松元氏とJ-STAR運営ファンドとの間で株主間契約(ガバナンス契約)も締結されています。

再出資後の買付者Mにおける議決権比率は、J-STAR側50.1%:松元氏側49.9%となる予定であり、出資比率ほぼ折半のパートナーシップ体制が構築される計画です。これにより、経営陣とスポンサーが協調して非公開化後の企業価値向上を目指す体制が整えられていると言えます。

経営陣にとっては引き続き高いコミットメントを持って経営を行うインセンティブが維持され、ファンドにとっても経営陣との利害一致(インセンティブ・アライメント)が図られる構造になっています。

買付け価格の決定プロセスと公正性

今回の公開買付価格3,060円は、TOB発表前日の株価2,231円に対して約37.16%のプレミアムを付与した水準となりました。約37%ものプレミアムを乗せた背景には、一般株主に十分な上乗せ幅を提示することで応募を促す狙いがあると考えられます。また、経営陣(松元氏)やJ-STAR側が本TOB後に買付者M社に出資(株式取得)する際の評価額については、本TOBの公開買付価格と同一の価格に設定する前提である旨が公表されています。これは、買収関係者だけが有利な条件で株式を取得しないようにするための措置で、公開買付けにおける価格の公平性を確保するものです。さらに前述のように、筆頭株主・商船三井向けの株式買い取り価格も税効果を織り込んだ上で実質的にTOB価格と同等の条件となるよう調整されています。これらの工夫により、本TOBの買付価格決定プロセスは一般株主・経営陣・大株主のいずれにも配慮された公正なものとなっています。

今後の見通しと影響

本TOBが成功裏に成立し、その後の株式併合・自己株式取得まで一連の手続きが完了すれば、日本コンセプト株式は上場廃止となる見通しです。実際、公開買付けの発表資料でも商船三井持株の取得を含め非公開化(上場廃止)を目指すことが明言されています。

TOB完了後、速やかに臨時株主総会が招集され、株式併合(および単元株制度の廃止に伴う定款変更)の議案が上程される見込みです。株式併合は特別決議事項であり議決権の3分の2以上の賛成が必要ですが、買付者Mおよび松元氏側に加え筆頭株主の商船三井も賛成する契約となっているため、必要な賛成票は十分に確保できると考えられます。

したがって決議可決後は速やかに株式併合の効力発生と商船三井株の自己株式取得が行われ、日本コンセプトは買付者Mの完全子会社(100%子会社)となります。これに伴い、正式に東京証券取引所プライム市場での上場廃止手続きが進められ、2025年内にも株式は市場から姿を消す可能性が高いでしょう。

経営体制については、前述の通りMBO後も松元孝義社長が引き続き経営を担う予定であり、現経営陣の継続性が保たれる見込みです。オーナー経営者である松元氏が引き続き約50%を出資し経営を継続することで、従業員や取引先にとっても経営の連続性・安定性が確保される点はポジティブな材料です。

また、新たな筆頭株主となるJ-STAR側も約50.1%を出資し、パートナーとして経営に参画します。J-STARは豊富な投資経験やネットワークを活用して非公開化後の日本コンセプトの企業価値向上を支援するとみられ、資本面・経営面で協働する体制が整います。

松元氏とJ-STARファンドの出資比率(49.9%:50.1%)はほぼ折半であり、このバランスは経営陣と投資家の利害を一致させ、中長期的な会社の発展に向けた意思決定がなされることを期待させます。

一般株主にとっては、TOB応募により現金で持ち株を売却する機会が提供されます。仮にTOBに応募しなかった場合でも、最終的には株式併合の実施によって保有株式は強制的に現金化されることが予想されます(併合比率により端数株となった分は会社に買い取られるため)。

今後、上場廃止後の同社は、新たな資本構成の下でタンクコンテナ物流事業の強化策や成長投資を推進し、中長期的な企業価値向上を図っていくものと見込まれます。近年増加するプライベート・エクイティ主導のMBO事例の一つとして、市場関係者の大きな関心を集めています。

オーナー経営・割安銘柄のMBO候補(中小型株)

最後に、今回の日本コンセプトと同様な状況に置かれており、将来的なMBOの可能性がある銘柄を紹介したいと思います。

ライク <2462>(東証プライム)

保育園運営や人材サービス、介護事業などを展開。筆頭株主は創業者・岡本泰彦会長兼社長の資産管理会社で、典型的なオーナー経営企業です。業績は好調な一方、株価は今年に入って下落基調でPERは10倍程度と割安感が強く、配当利回りも4%台に達しています。創業オーナーによる経営判断の迅速化や株主価値向上を目的に、外部ファンドと組んだMBO候補として注目されます。

小野建 <7414>(東証プライム)

九州地盤の鉄鋼商社。社名と同じ小野建氏が社長を務める創業家経営の企業です。業績規模拡大を続けていますが、PBRは約0.4倍程度に留まり資産面で著しく割安な水準です。

含み資産(保有不動産など)が大きく株価に織り込まれていない可能性もあり、創業家が主導するMBOで非公開化し、長期視点で事業価値を引き出すシナリオが想定されます。

フージャースホールディングス <3284>(東証プライム)

マンション開発「DUO」ブランド等を展開。不動産市況追い風で直近業績は大幅増益となり、配当利回りも6%近くあり高水準です。代表取締役会長の広岡哲也氏が筆頭株主を務めるオーナー系企業で、かつて旧村上ファンド系の投資会社が筆頭株主となりましたが、2021年に経営陣が自己株TOBを実施してその持株を買い取った経緯があります。

現在もPER7倍程度と割安感が強く経営陣が引き続き経営を担いながらファンドと協働して非公開化を図る候補とみられます。

オークワ <8217>(東証プライム)

和歌山県地盤のスーパー。創業家出身の大桑弘嗣氏が社長を務めるオーナー企業であり、地域密着経営を続けています。近年は出店投資負担もあり業績は伸び悩んでいますが、地元和歌山や中部圏での売上成長余地もあり潜在力は依然あります。

株価は年初来安値圏に沈み、PBRは約0.5倍と著しく低い状況です。創業家の経営続投を前提に、外部資本と組んで非公開化し経営改革に取り組む可能性がある銘柄といえます。

藤商事 <6257>(東証スタンダード)

パチンコ・パチスロ遊技機メーカー。創業家の松元邦夫会長と松元正夫副会長がそれぞれ約21%を保有し、合計約42%の株式を握る大株主となっています。スマートパチスロなど新分野への展開で業績は安定、配当利回りも5%を超え、PBRは0.5倍程度と依然として1倍を下回っています。

創業家経営陣と投資ファンドがほぼ折半出資するMBOを実施すれば、経営の連続性と安定を維持しつつ非公開化後の企業価値向上を図れるとの見方があります。実際、日本コンセプトのケースでは松元社長が保有株をTOBに応募後に49.9%を新会社へ再出資し、ファンド側(J-STAR)が50.1%出資することで利害を一致させた経緯があります。

藤商事も創業家(松元氏ら)約49.9%:ファンド約50.1%というバランスで協働すれば、中長期的な成長戦略を推進しやすいと期待されます。

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