証券会社が倒産したらどうなる?顧客資産の行方と補償制度を徹底解説

証券会社が倒産したらどうなる?顧客資産の行方と補償制度を徹底解説

大切な資産を預けている証券会社が倒産したらどうなるのか不安に感じたことはありませんか?証券会社の倒産時には預けた資産の一部が戻らない可能性もあるため、事前に仕組みを理解しておくことが重要です。

この記事では証券会社が倒産した場合に起こることや資産を守るための制度、証券会社が倒産した場合の対応を解説します。記事を読めば、資産を預けている証券会社の倒産時に自分の資産を守る方法がわかります。

証券会社に預けた資産は、分別管理と投資者保護基金による保護・補償制度の対象です。証券会社が倒産しても顧客の資産は守られますが、取引内容によっては補償の範囲外となるケースもあります。

証券会社が倒産したら起こること

証券会社が倒産しても預けている資産は原則として保護されます。ただし、すぐに通常どおり取引できるわけではなく、顧客の取引や資産管理に大きな影響が生じます。証券会社の倒産に伴い会社機能が一時的に停止し、顧客資産を安全に他社へ移すための準備期間が必要になるためです。

証券会社の倒産に伴う顧客や取引への影響は以下のとおりです。

  • 預かり資産が一時的に凍結する
  • 市場変動による損失リスクがある
  • 資産の移管に時間がかかる

証券会社の倒産直後は株式や投資信託の売買、入出金などが一切できません。自分の資産を別の証券会社に移動することが資産を守る有効な対策の一つですが、手続きが必要です。しかし、倒産した証券会社の問い合わせ窓口が混み合うため、必要な情報を得られずに資産の移管に時間がかかる可能性があります。

別の証券会社へ資産を移管している間に市場が動いても、利益確定や損切りなどの対応が取れない状況が発生してしまいます。

過去の倒産事例

日本でも証券会社が倒産した例はあります。実際に起こった証券会社の倒産例と当時の証券会社側の対応は以下のとおりです。

山一證券・三洋証券(1997年)
山一證券や三洋証券は経営悪化や粉飾決算が原因で倒産しました。顧客の資産は「分別管理」により、会社の資産とは分けて保管されていたため保護されています。山一證券・三洋証券の倒産をきっかけに投資家を守る制度が強化されました。
丸荘証券(2000年)
丸荘証券では経営陣が顧客のお金を不正利用したことで信用を失い、経営が破綻して倒産に至っています。
丸荘証券の倒産時に初めて「日本投資者保護基金」によって投資家1人当たり1,000万円を上限に補償が行われました。
リーマン・ブラザーズ証券(2008年)
リーマン・ブラザーズ証券は2008年の世界的な金融危機によって倒産しました。アメリカの親会社が破綻した影響を日本の会社も受けてしまった形です。リーマン・ブラザーズ証券の倒産時も分別管理が機能し、顧客の資産は保護されています。しかし、手続きが複雑だったことにより資産が戻るまでに時間がかかっています。
エフ・エー・シー証券(2015年)
エフ・エー・シー証券は顧客の資産を分けて管理していなかったことが問題となり、破産に至りました。エフ・エー・シー証券の倒産時には「日本投資者保護基金」によって、顧客が資産を取り戻せる資金援助が行われています。

証券会社が倒産した場合の資産の行方

証券会社が倒産しても顧客の株式や投資信託などの資産は原則として全額保護されます。法律により顧客の資産は証券会社の資産との分別管理が義務付けられており、会社の経営悪化は顧客の資産に影響しません。ただし、預けている資産によって扱い方や返還までの手続きが異なります。

株式、投資信託、債券の扱い

証券会社が倒産しても顧客が保有する株式や投資信託、債券などの資産は原則として保護されます。法律で定められた「分別管理」の仕組みにより、証券会社自身の資金とは別に管理されているためです。証券会社が経営破綻しても顧客の資産が勝手に処分されたり、債権者に差し押さえられたりすることはありません。

倒産後は預けていた資産を速やかに他の証券会社に移す手続きを行う必要があります。別の証券会社への手続きが完了すれば、株式や投資信託などの資産は通常どおり利用できるようになります。ただし、資産を別の証券会社に移管している間は一時的に売買ができないため、市場の急変時に対応できない点に注意が必要です。

万が一証券会社が分別管理を怠り、顧客資産が不足した場合は日本投資者保護基金によって上限1,000万円まで補償されます。

NISA口座の扱い

NISA口座で保有している株式や投資信託などの資産は分別管理されており、証券会社の倒産によって失われることはありません。

証券会社の倒産後はNISA口座の資産を他の証券会社に移すことで、非課税での運用が継続できます。ただし、NISA口座は同一年内に別の金融機関で開設できないため、移管先は特定口座または一般口座のいずれかです。

特定口座や一般口座に資産を移管した場合、非課税枠は引き継がれずに課税対象として扱われます。証券会社が倒産した年にNISA口座で新たに買い付けた場合は、移管後の資産の課税処理に注意が必要です。

顧客資産の保護制度「分別管理」

証券会社が倒産した場合に顧客の資産を守れるよう備えられている保護制度が「分別管理」です。分別管理の仕組みと分別管理の対象となる資産を紹介します。

分別管理の仕組み

分別管理とは証券会社が顧客から預かった資産を自社の資産とは完全に分けて管理する仕組みです。金融商品取引法によってすべての証券会社に分別管理が義務付けられています。万が一証券会社が倒産しても顧客の資産が会社の債権者に差し押さえられることはありません。

分別管理の状況は公認会計士や監査法人によって定期的に監査が行われており、顧客の資産は安全に保護されています。

分別管理される資産の種類

分別管理の対象となる主な資産は以下のとおりです。

  • 株式
  • 投資信託
  • 債券
  • REIT(不動産投資信託)
  • 取引に利用する預かり現金
  • MRF(マネー・リザーブ・ファンド)

株式や投資信託などの有価証券は証券会社の資産とは別に日本証券保管振替機構などの機関で、顧客ごとに区分して保管されます。現金を預けている場合は信託銀行に信託され、証券会社の口座資金とは切り離して保全されます。

証券会社倒産時の補償制度「日本投資者保護基金」

証券会社が分別管理を適切に行わず、倒産により顧客資産を返還できなくなった場合に備えた制度が「日本投資者保護基金」です。日本投資者保護基金が設立された目的と補償範囲を紹介します。

目的と設立背景

日本投資者保護基金は証券会社の倒産時に一定の範囲で資産を補償する仕組みを備えた基金制度です。日本投資者保護基金の設立背景には、バブル崩壊後に相次いだ証券会社の経営破綻や、不適切な顧客資産の分別管理があります。

過去に発生した証券会社の倒産では投資家が自らの資産を取り戻すまでに長期間を要し、市場全体への不信感が広がりました。金融市場の安定を保ち、投資家が安心して証券取引を行える環境を整えるために日本投資者保護基金が創設されました。

補償範囲

日本投資者保護基金による補償は証券会社が破綻した際に顧客1人当たり最大1,000万円までを上限に行われます。日本投資者保護基金の補償の対象の資産と対象外の資産は以下のとおりです。

補償対象の資産補償対象外の資産
株式
投資信託
債券
証券会社に預けていた現金
FX(外国為替証拠金取引)
暗号資産
OTCデリバティブ取引
相場変動による投資元本の損失

補償の範囲と上限は明確に定められています。特に補償対象外の高リスク商品を扱う場合は自己責任での運用が求められます。

証券会社が倒産したら取るべき行動

証券会社の倒産は投資家にとって不安要素ですが、資産や取引に影響が及ぶかは倒産後の対応次第です。倒産発表直後の初動対応と資産を安全に移すための手続きについて解説します。

倒産が発表された際の初動対応

証券会社の倒産直後は情報が錯綜しやすく、誤った情報で行動すると損をする恐れがあります。証券会社の倒産が発表された場合は落ち着いて、以下の点を確認しましょう。

  • 公式サイトや信頼できるニュースで倒産の事実を確認する
  • 焦って株式や投資信託を売買しない
  • 専門家(弁護士・管財人)からの正式な連絡を待つ
  • 「日本投資者保護基金」など公的機関の最新情報を確認する
  • 残高や取引履歴の書類を安全に保管する

冷静に情報を整理すれば、証券会社が倒産しても資産を守るための最善の判断ができます。

資産移転手続きのポイント

証券会社の倒産に伴う資産移転や補償の手続きには期限が設けられています。書類の不備や申請の遅れがあると資産を他の証券会社へ移管できなくなるため、早めの対応が欠かせません。

まずは倒産した証券会社や管財人から届く正式な案内を確認し、手続きの流れを把握しましょう。倒産した証券会社からの案内には移管可能な資産の種類や手続き期限、問い合わせ先などが記載されています。

次に移管先の証券会社を決め、口座を開設します。移管専用フォームや書類の提出方法は証券会社によって異なるため、事前に公式HPで手続き方法を確認しておくと安心です。他の証券会社へ資産を移管するときは以下の資料をまとめて準備しておきましょう。

  • 本人確認書類
  • マイナンバーカード
  • 倒産した証券会社の口座番号・残高証明

証券会社への資産の移管に関して不明点があれば、案内に記載された問い合わせ窓口や日本投資者保護基金に確認してください。

証券会社の倒産リスクから資産を守る方法

証券会社が倒産するリスクは低いものの、実際に過去の例があるため万が一に備えた対策をしておくことが大切です。証券会社の倒産リスクを最小限に抑えるために、以下の3つのポイントを意識しましょう。

  • リスク分散を心がける
  • 定期的に資産状況を確認する
  • 信頼できる証券会社を選ぶ

リスク分散を心がける

資産を守るためには1つの証券会社にすべてを預けず、複数口座に分散しておきましょう。特定の証券会社が倒産した場合、取引が停止して資金を動かせなくなる恐れがあるためです。資産を安全に管理するためには、以下の方法で分散させると効果的です。

  • 国内/海外株式・NISAなど、投資の目的に応じて口座を使い分ける
  • メイン口座とサブ口座の2〜3口座に絞る
  • 異なる商品や地域に分散する

日本投資者保護基金の補償を受けるためにも預ける証券会社の分散は有効です。日本投資者保護基金では1金融機関当たり1,000万円までしか資産が保護されないからです。すべての資産を1つ証券会社に預けてしまうと、万が一倒産した際に1,000万円以上の資産の補償は受けられません。

定期的に資産状況を確認する

証券会社の口座は定期的なチェックを怠ると、倒産や不正アクセスなどの異変に気づくことが遅れる恐れがあります。自分の資産の状態を常に把握しておくことがリスク管理の基本です。証券会社に預けている資産を確認する際に見るべきポイントは以下のとおりです。

  • 資産残高と評価額
  • 取引履歴・報告書
  • 証券会社の最新情
  • 登録情報

証券会社によっては不正ログイン防止のためにワンタイムパスワードや二段階認証を設定できる場合もあります。ポートフォリオを見直すタイミングで口座全体を点検することも有効です。

信頼できる証券会社を選ぶ

証券会社によって財務の健全性や顧客保護の体制が異なるため、企業の安全性を客観的に判断することが資産を守るために重要です。証券会社の信頼性を見極めるには以下のポイントをチェックしてください。

  • 自己資本規制比率が120%以上あるか
  • 大手金融グループ傘下または単独上場しているか
  • 運営実績や口座数など、事業規模が十分にあるか
  • 顧客資産と会社資産の分別管理体制が整っているか
  • 二段階認証や暗号化通信などのセキュリティ対策が導入されているか
  • 格付け機関で高評価を受けているか
  • システムトラブル時の対応体制が明確にされているか

証券会社を選ぶ際は複数の会社を比較し、情報公開やサポート体制が透明で信頼できる企業を選びましょう

証券会社の倒産に関するよくある質問

証券会社の倒産に関するよくある質問は以下のとおりです。

  • 証券会社の倒産リスクを見極める方法は?
  • 顧客自身ができる倒産リスク対策は?
  • 資産が戻ってこないケースはある?

証券会社の倒産リスクを見極める方法は?

証券会社の経営状態を見極めるには公開情報を活用することが確実です。証券会社は金融商品取引法により財務状況や運営体制を定期的に公開する義務があります。公開された財務状況や運営体制を確認することで経営の健全性を自分で判断できます。証券会社が公開している情報で確認すべきポイントは以下のとおりです。

  • 自己資本規制比率
  • 決算情報(決算短信・有価証券報告書)
  • 信用格付け(S&P・R&Iなどの評価)
  • 親会社やグループ企業の経営状況
  • 行政処分・業務改善命令の有無
  • 経営に関するネガティブな報道や風評

証券会社の情報をチェックしておけば経営悪化の兆候を察知でき、資産を他の証券会社へ移すなどの対策を取れるようになります。
» 買ってはいけない高配当株の特徴を徹底解説!

顧客自身ができる倒産リスク対策は?

証券会社の倒産リスクに備えるためには以下の対策が有効です。

  • 複数の証券会社に口座を開設して資産を分ける
  • 証券会社の自己資本規制比率や決算情報を確認する
  • 証券会社が「日本投資者保護基金」の会員であるか確認する
  • 取引報告書や残高証明書をこまめに確認する
  • 利用中の証券会社に関するニュースや経営情報に注意を払う

証券会社の倒産リスク対策を講じておけば、倒産による取引停止や資金凍結などのリスクを最小限に抑えられます。

資産が戻ってこないケースはある?

証券会社が倒産しても基本的に顧客の資産は保護される仕組みは整っています。ただし、制度の対象外取引や管理不備がある場合は一部が戻らない可能性もあります。証券会社の倒産時に資産が戻らないケースは以下のとおりです。

  • 顧客資産と会社資産を分けて管理していなかった
  • 現金が補償上限の1,000万円を超えていた
  • FXや暗号資産など、保護制度の対象外だった
  • 日本の保護制度に未加入の海外業者を利用していた
  • 詐欺業者や偽の証券会社に資金を預けてしまった

資産が戻ってこないケースは多くはありませんが、ゼロではありません。資産を守るためには、証券会社の信頼性や金融商品の保護範囲を確認しておくことが大切です。

証券会社が倒産したらどうなるかを理解し、事前対策をしよう

証券会社が倒産しても投資家の資産は「分別管理」と「日本投資者保護基金」によって原則として守られます

資産保護の安全性を高めるためには信頼ある証券会社を選ぶことに加え、複数の金融機関に資産を分散しておくことが効果的です。万が一の証券会社の倒産に備えておくことで、予期せぬリスクにも落ち着いて対応できる環境を整えられます。

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