旧NISAの利用者にとって2024年に始まった新NISAは、口座や商品の扱い方がわかりにくいのではないでしょうか?制度の変更点や移行手続きに戸惑いや不安を感じている方が多いはずです。新NISAの変更点を正しく理解しておかないと、非課税のメリットを十分に生かせない恐れがあります。
この記事では旧NISAと新NISAの違いや移行のポイント、保有商品の具体的な運用方法を解説します。記事を読めば新NISAへの移行に関する疑問が解消され、新制度を最大限に活用した資産運用を始めることが可能です。
旧NISA口座は自動で新NISA口座に切り替わりますが、保有商品は移行できません。旧NISAの商品は非課税期間が終了まで保有するか、売却して新NISAで買い直すかを選択する必要があります。
新NISAと旧NISAの5つの違い

新NISAは旧NISAと比べて大幅に改善され、投資家にとって使いやすい制度になりました。新NISAと旧NISAの違いは以下のとおりです。
- 非課税保有期間が無期限になった
- 年間投資上限額が引き上げられた
- 非課税保有限度額の再利用ができるようになった
- 一般NISAとつみたてNISAの併用ができるようになった
- 口座開設期間が恒久化された
非課税保有期間が無期限になった
新NISAでは非課税で商品を保有できる期間が無期限になったため、期間を気にせずに長期的な視点で資産運用に取り組めます。旧NISAは非課税保有期間に上限があり、つみたてNISAは最長20年、一般NISAは最長5年でした。
旧NISAでは非課税期間の終了後、相場が下落していても商品を売却するか、課税口座(※1)へ移す必要がありました。しかし新NISAでは非課税期間が無期限になり、自分のライフプランに合わせて最適なタイミングで利益を確定できます。
※1 課税口座とは株式や投資信託の利益に税金がかかる口座のことです。一般口座と特定口座が課税口座に該当します。
年間投資上限額が引き上げられた

新NISAでは非課税で投資できる金額の上限が、年間で最大360万円に引き上げられました。新NISAと旧NISAの年間投資上限額の内訳は以下のとおりです。
| NISAの種類 | つみたて投資枠・つみたてNISA | 一般NISA・成長投資枠 |
| 新NISA | 120万円 | 240万円 |
| 旧NISA | 40万円 | 120万円 |
毎月コツコツ積み立てる場合、新NISAでは月々最大30万円まで非課税で投資できます。
非課税保有限度額の再利用ができるようになった
旧NISAでは商品を売却しても、非課税枠は再利用できませんでした。一方で新NISAではNISA口座で保有している商品を売却した場合、売却した商品の購入金額分の非課税枠が翌年に復活します。1,800万円の「生涯非課税保有限度額」が設けられたことで、非課税枠を再利用できるようになりました。
子どもの進学資金として300万円が必要になり、NISA口座の商品を売却して現金化したとします。売却した300万円分の非課税枠は翌年に復活し、復活した非課税枠を使って再び非課税で投資を始められます。
新NISAではライフイベントに合わせて柔軟に資金を使いながら、長期的な資産形成の計画を立てやすくなりました。
一般NISAとつみたてNISAの併用ができるようになった

旧NISAでは「一般NISA」か「つみたてNISA」のどちらか一方を選ぶ必要がありました。しかし新NISAでは「成長投資枠(旧一般NISA)」と「つみたて投資枠(旧つみたてNISA)」を同じ年に利用できます。2つの枠を併用できることで、新NISAでは投資の自由度が格段に上がります。
新NISAではつみたて投資枠で安定した資産形成をしつつ、成長投資枠で積極的に利益を狙う柔軟な投資戦略が可能です。
口座開設期間が恒久化された
旧NISAは2023年で終わる期間限定の制度でしたが、新NISAは口座を開設できる期間に決まりがなくなりました。新NISAでは口座開設期間が恒久化されたことにより、以下のメリットがあります。
- 慌てて口座を開設する必要がない
- ライフプランに合わせて好きなタイミングで投資を開始できる
- 長期的な目標に沿ってじっくり資産形成の計画を立てられる
旧NISAから新NISAへの移行のポイント4選

旧NISAから新NISAへ移行する際には、以下の4つの重要なポイントを理解しておく必要があります。
- 旧NISA口座開設者は新NISA口座が自動で開設される
- 旧NISA口座と新NISA口座は別枠で管理される
- 旧NISAから新NISAへのロールオーバーはできない
- 旧NISAの積み立て設定は新NISAに引き継がれる
旧NISA口座開設者は新NISA口座が自動で開設される
すでに旧NISA口座を持っている場合、新NISAを始めるための特別な手続きは基本的に必要ありません。2023年中に旧NISA口座を開設していれば、同じ金融機関で2024年の最初の営業日に自動で新NISA口座が設定されます。
ただし旧NISA口座とは別の金融機関で新NISAを始めたい場合は、年単位での金融機関変更手続きが別途必要です。2023年末までに旧NISA口座を持っていなかった場合は、NISA口座の開設手続きをすることで新NISAを始められます。
旧NISA口座と新NISA口座は別枠で管理される
旧NISAと新NISAの口座は別々に管理されます。2023年までに旧NISAで投資した資産は、新NISAの非課税投資枠とは完全に切り離して考える必要があります。旧NISA口座で保有している資産は、新NISAの生涯非課税限度額である1,800万円の枠には含まれません。
旧NISA口座は非課税期間が終了するまで商品の保有を続けられますが、新たな商品の購入はできません。
旧NISAから新NISAへのロールオーバーはできない

旧NISAで保有していた商品を新NISAへ移す「ロールオーバー(※2)」は認められていません。旧NISAと新NISAは別の制度として扱われるためです。新NISAでも旧NISAと同じ商品を運用したい場合、旧NISAで保有している商品を売却して現金に戻す手続きが必要です。
旧NISAで保有していた商品を売却して得た現金を使い、新NISA口座で同じ商品を買い直します。
※2 ロールオーバーとは満期を迎えた投資商品を解約せずに、同じ金融商品へ自動的に再投資することです。
旧NISAの積み立て設定は新NISAに引き継がれる
旧NISAのつみたてNISAで設定していた積立内容は、原則として新NISAの「つみたて投資枠」へ自動で引き継がれます。以下の内容がそのまま新NISAに引き継がれ、2024年1月から同じ設定で積立が始まります。
- 投資信託の銘柄
- 毎月の積立金額
- 買付日
引き継がれた積立設定は新NISAの年間投資枠の範囲内であれば、いつでも金額の増減や銘柄の変更が可能です。新NISAでは基本的に自分で新たに積み立て設定をする必要はありませんが、金融機関によっては対応が異なる場合があります。念のため利用している証券会社の公式サイトで確認しましょう。
旧NISAで保有している商品の運用方法

旧NISAで保有している商品の運用方法には、大きく分けて以下の2つの選択肢があります。
- 非課税保有期間が終了するまで運用を続ける
- 一度売却して新NISAで商品を購入する
非課税保有期間が終了するまで運用を続ける
旧NISA口座で保有している商品は、非課税期間が終わるまで運用を続けることが可能です。旧NISAの非課税期間が終わった商品は、自動的に課税口座へ移されます。課税口座に移された時点での価格が新しい購入価格として扱われ、移行後の値動きによって税金が決まります。
10万円で購入した商品が8万円に値下がりした状態で課税口座に移される場合を考えてみましょう。課税口座へ移行後に9万円に値上がりしたタイミングで商品を売却すると、実際には1万円の損失が出ています。ただし課税口座では8万円で購入したとみなされるため、1万円の利益として課税対象になります。
購入したときよりも価格が下がった状態で課税口座に移されると、税金の計算で不利になる可能性があるため注意が必要です。課税口座に移された後、商品を売らずに運用を続けることも可能です。
一度売却して新NISAで商品を購入する
旧NISA口座の商品を売却して得た資金で、新NISAの商品を買い直すことが可能です。旧NISAの非課税期間で得た利益を確定させつつ、新NISAに移すことで無期限の非課税メリットを生かせます。利益が出ている商品を旧NISA口座で売却した場合には、利益は非課税となります。
売却して得た資金を使って新NISAで商品を買い直すことで、非課税投資を続けることが可能です。ただし含み損のある商品を売却した場合、損失は税金の計算上ないものと扱われ、他の利益と相殺(損益通算)はできません。
新NISAで商品を買い直す際は、年間の投資上限額(最大360万円)の範囲内で行う必要があります。保有している商品の金額によっては、一度にすべてを新NISAに移せない場合もあるため注意してください。
新NISA口座での運用のポイント

新NISA口座を活用した効果的な資産運用のポイントは以下のとおりです。
- 長期的な目線で積立投資する
- 非課税投資枠を最大限に活用する
長期的な目線で積立投資する
新NISAでは時間を味方につけることで価格変動によるリスクを抑えながら、複利(※3)の効果を生かして資産を育てられます。新NISAのメリットを最大限に引き出すためには、定期的に一定額を投資し続ける「ドルコスト平均法」の活用がおすすめです。ドルコスト平均法には以下のメリットがあります。
- 相場変動に合わせて購入価格を平均化できる
- 一括投資より、高値掴み(※4)のリスクを抑えられる
- 相場下落時も安く買うチャンスとして積立を続けられる
目先の値動きに一喜一憂せず、積立を継続することが新NISAを上手に活用するポイントです。
※3 複利とは元本だけでなく、増えた利息にもさらに利息がつく仕組みのことです。利益を再投資していくことで、雪だるま式に資産が増えていきます。
※4 高値掴みとは相場が高いときに買ってしまい、購入後に値下がりして損をすることを指します。
非課税投資枠を最大限に活用する
新NISAを最大限に活用するには年間360万円の投資枠を活用し、1,800万円の生涯投資枠を早めに埋めることが大切です。非課税枠を早く使い切ることで、より多くの資金を長期間にわたり非課税で運用できます。運用期間が長くなるほど、複利の力が大きくなって効率的な資産形成につながります。
非課税投資枠を最大限に活用する方法は以下のとおりです。
- 積立額の増額・追加投資
- 最短5年での投資計画
- 両方の投資枠の使い分け
- 売却枠の再利用
成長投資枠では大きなリターンが期待できる個別株や、アクティブファンドも選択肢に入れると投資の幅が広がります。
新NISAへの移行に関するよくある質問

新NISAに関するよくある質問をまとめました。新NISAへの移行について気になっている方は参考にしてください。
旧NISAから新NISAに自動移行される?
旧NISAで保有している資産は、新NISA口座へ自動で移行されません。旧NISA口座で保有している資産は、新NISAの非課税投資枠とは別に管理されるためです。ただし2023年末までに旧NISA口座を持っていた場合、同じ金融機関に新NISA口座が自動で開設されます。
つまり「NISA口座」は自動で移行されますが、口座の中で保有している「資産(金融商品)」は移行されません。
新NISAへの切り替え時期と手続き期間は?
新NISAへの切り替えに特別な申し込み期間や手続きの期限はありません。新しくNISAを始めたい方は、自分の好きなタイミングで口座開設の手続きができます。すでに旧NISA口座を持っている方は、2024年1月1日に同じ金融機関で自動的に新NISA口座が作られます。
ただし利用する金融機関は年の途中で変更できないため、変更手続きは年単位で行ってください。
旧NISAの商品はどうなる?

旧NISAで保有している商品は、新NISAが始まっても非課税期間が終わるまで非課税で保有できます。旧NISAでは一般NISAは最長5年間、つみたてNISAは最長20年間という非課税保有期間が定められていました。非課税期間が終了すると、旧NISAで保有している商品は自動的に課税口座に移されます。
課税口座に移された場合には移行時の価格が新しい購入価格となり、移行後に増えた利益には税金がかかります。旧NISAから新NISAの口座へ商品を直接移す「ロールオーバー」はできません。旧NISAの商品は非課税期間が終わるまでは今まで通り運用を続け、期間が終了したら課税口座に移されると覚えておきましょう。
ジュニアNISAのロールオーバーはどうなる?
ジュニアNISAは2023年末で制度が終了したため、新NISAへのロールオーバーはできません。ただし、ジュニアNISAは5年間の非課税期間終了後に「継続管理勘定」に移され、非課税で商品を保有できる仕組みがあります。継続管理勘定では子どもが18歳になるまで非課税で商品を保有し続けることが可能です。
子どもが18歳になると、保有している商品は課税口座へ移されます。2024年以降はジュニアNISAの制度が終了したことに伴い、18歳になる前でも非課税で払い出せるようになりました。ただし、資金を引き出す場合は一部だけを取り崩すことはできず、全額を払い出して口座を閉じる必要があります。
移行のポイントを押さえて新NISAで資産形成を進めよう

新NISAでは非課税期間が無期限になり、年間投資枠も大幅に拡大されました。旧NISA利用者は特別な手続きなしで、自動的に同じ金融機関に口座が開設されます。旧NISAから新NISAに移行する際は、旧NISAの資産が別々に管理されます。新NISAへの移行時には積立設定が自動的に引き継がれることも覚えておきましょう。
新NISAの変更点を正しく理解して活用することで、長期的な資産形成を有利に進められます。