ドイツ株高の影響を受ける日本企業6選

ドイツ株高の影響を受ける日本企業6選

はじめに:ドイツ株式市場が注目される理由
2025年に入り、ドイツの株式市場が好調さを維持しています。代表的な指数であるDAX指数(フランクフルト取引所の株価指数)は、3月上旬まで連日で史上最高値を更新し、年初来で約17%もの上昇を記録しました。4月には一時的な調整もありましたが、依然として前年末比でプラス圏を保っています。ドイツ株がこれほど注目を集めるのはなぜでしょうか。本稿では、その背景にあるマクロ経済・企業業績・政策面での要因を多角的に分析し、現在の上昇要因を探ります。また、そうしたドイツ株高の恩恵を受けそうな日本企業(ドイツ向け売上が多い、ドイツに拠点がある、ドイツ企業と提携している等)を5〜7社ピックアップし、企業概要や財務状況、ドイツとの結びつきをわかりやすく紹介します。個人投資家の皆さんが 「ドイツ景気の追い風を受ける日本株」 を考える際の参考になれば幸いです。

ドイツ株高の背景:景気低迷から一転、金融緩和と財政拡張で期待感

まず、ドイツ株が上昇している背景から見てみましょう。ポイントは景気の底入れ期待政策転換です。昨年までドイツ経済は「欧州の機関車」と呼ばれながらも足踏み状態でした。その主因は、ウクライナ危機によるロシア産エネルギー供給ストップでエネルギー価格が急騰し、インフレと景気悪化に苦しんだからです。ドイツは産業界がロシアの安価な天然ガスに依存していたため、供給遮断の打撃が大きく、2023年も実質GDP成長率がマイナスとなる見通しでした。しかし状況は2024年末〜2025年にかけて大きく変わります。

①ECBの金融緩和期待:

欧州中央銀行(ECB)はインフレ鎮静と景気後退リスクを踏まえ、2024年6月から利下げに転じました。その後も毎回の理事会で連続利下げを実施し、2025年3月時点で中銀預金金利は2.5%まで低下しています(2024年半ば時点から累計▲1.5%の利下げ)。一方、米国FRBは2024年末以降利下げを停止し政策金利を4.25〜4.5%に据え置いています。つまり欧州は米国に先行して金融緩和局面に入ったのです。

この政策スタンスの違いから、「景気テコ入れのため欧州は金利低下=株式に追い風」との見方が強まり、欧州株式市場全体に上昇圧力がかかりました。金利低下は企業の資金調達コストを下げ、将来利益の現在価値を押し上げるため株高要因となります。

②ドイツの財政拡張策:

もう一つの転換点はドイツ政府の財政政策スタンスの変化です。2025年3月、ドイツ与野党は国防費増強のため、従来の厳格な債務抑制ルール(憲法で定めた「債務ブレーキ」条項)を一時緩和し、大規模な財政出動に踏み切る方針で合意しました。これはドイツにとって異例の方針転換で、各国に驚きをもって受け止められました。背景にはウクライナ情勢を受けた安全保障強化の必要性がありますが、結果的にドイツ・EU全体で財政拡大による景気刺激期待が生まれました。

それまでの株高は「不況下の金融相場(景気実態が悪い中でも金融緩和で株だけ上がる)」との指摘もありましたが、財政拡張が示されたことで「これから景気や企業業績も伴ってくるのでは」と株高のストーリーがポジティブに変化したのです。

以上二つの政策要因(金融緩和と財政出動)が大きな支えですが、他にもグローバルな経済環境がドイツ株を後押ししました。2024年は米国経済が底堅く推移し、中国経済もゼロコロナ解除後の回復期待が高まりました。こうした世界経済の堅調見通しが輸出依存度の高いDAX銘柄群を支えたと指摘されていますbloomberg.co.jp。事実、DAX構成企業の売上の多くは海外市場で稼がれており、国内景気が停滞していてもグローバル需要があれば利益を上げられる企業が多いのです。

セクター別の明暗:

ドイツ株高と言っても、全ての業種が一様に好調なわけではありません。2024年のDAX構成銘柄で上昇への寄与度が最も大きかったのは、ソフトウェア大手のSAPでした。また防衛産業のシーメンス・エナジー(エネルギー関連)は年間で+300%超軍需企業ラインメタル(Rheinmetall)+200%以上と異例の急騰を見せました。

これは欧州各国が防衛費を増やし軍備を強化している流れを反映しています。一方で、伝統的な花形の自動車産業は低迷しました。電気自動車(EV)市場で中国メーカーが勢いを増し、世界的な需要減速もあって、フォルクスワーゲン、BMW、ポルシェといったドイツ自動車株は2024年に軒並み20%以上の下落で年間取引を終えました。つまり、IT・軍需など新たな牽引役が株価を押し上げる一方、旧来型産業の一部には逆風も吹いていたのです。このようなセクター間の明暗はありますが、総じて見れば「金融緩和+財政拡張+世界景気底堅さ」による総合的な追い風がドイツ株を高値圏に押し上げていると言えるでしょう。

ドイツ株高と“運命共同体”な日本株6選

ドイツ経済の回復期待と株高の流れは、欧州ビジネスと縁の深い日本企業にも波及しています。実際、欧州向け売上比率の高い日本株の中には今年に入って急騰した銘柄もあります。例として、DMG森精機マキタは欧州売上依存度が高いことで知られますが、2025年2〜3月にかけてドイツの財政拡張ニュースを受けて株価が大きく上昇しました。

ここからは、ドイツ景気や企業動向と密接に関わる日本企業を厳選して紹介します。企業ごとに概要と強み、財務の健全性や成長性(売上・利益・ROEなど)、そしてドイツとの結びつきについて掘り下げます。

①DMG森精機(6141)― 日独ハイブリッドの工作機械巨人

項目ハイライト
ドイツとの結びつき旧ギルデマイスターを統合しドイツに開発・生産拠点多数。受注の63%が海外、うち欧州比率が最も高い。
業績2024年売上 22.3億ユーロ、EBIT 2.45億ユーロで利益率改善。サービス収益比率が46%へ上昇し景気変動耐性が強化。
ドイツ株高との連動ドイツの国防・インフラ投資で高精度加工ニーズが拡大と報道、2月末〜3月にかけ株価が10%超上昇。

投資メモ

  • 受注単価は43.3万€へ上昇し高付加価値型へ転換中
  • 欧州向けは“円安×ユーロ高”のダブルメリット
  • 工作機械は景気循環株の側面も大きいので、受注推移の四半期チェック必須

②マキタ(6586)― DIY大国ドイツで「電動工具といえばマキタ」

項目ハイライト
ドイツとの結びつき欧州売上比率は約50%。独ホームセンターでの販路はプロ・個人双方に強固。
業績2025年3月期売上 7,531億円、粗利率改善で営業増益。自己資本比率80%、有利子負債ゼロ
連動ポイント住宅リフォーム需要が回復すると消耗工具の買替えが増える。ドイツの「省エネ住宅補助金」再開も追い風。

投資メモ

  • 40Vmaxシリーズが欧州向け牽引
  • スポット調整で買い易い一方、木材需要減少時は要注意
  • 自社株買いを実施しやすい財務体質

③ブリヂストン(5108)― EVシフト期でも利益を稼ぐ“黒いダイヤ”

項目ハイライト
ドイツとの結びつきメルセデス・BMW・アウディに純正装着。欧州売上9,085億円(23年)で地域別2位。
業績2023年売上 4兆3,138億円、IFRS営業利益 4,817億円(+9%) と最高益更新。
連動ポイントドイツ新車販売低迷で数量は伸び悩むが、高価格帯タイヤ・リトレッドで利益を確保。EUのCO2排出規制強化で低転がり抵抗タイヤ需要が増。

投資メモ

  • 原材料価格が落ち着けばレバレッジが利きやすい
  • EV時代でもタイヤ需要は継続、技術優位でプレミアム維持
  • 配当性向30%+自己株取得実績で株主還元安定

④デンソー(6902)― ドイツ高級車の“頭脳”を支える電装大手

項目ハイライト
ドイツとの結びつき欧州売上 7813億円(+14%)、ADASや電動化ユニットをBMW・VW・ダイムラーへ供給。
業績2024年売上 7.14兆円(+11.6%)、もとより研究開発費率約10%で技術投資継続。
連動ポイントEV普及・ADAS義務化に伴い高単価部品が拡大。独政府やEUのEV補助金動向が直接追い風。

投資メモ

  • 欧州のEV販売鈍化リスクはあるものの高付加価値製品で数量減を吸収
  • 品質費用引当で利益ブレがあるため決算発表前後はボラに注意

⑤オムロン(6645)― 「インダストリー4.0」ソリューションの主役

項目ハイライト
ドイツとの結びつき欧州売上 1,289億円・比率15.7%(FY2023)。産業オートメーション(IAB)の多くが独・伊の工作機械/食品ラインに納入。
業績2024年度IAB売上 3936億円、営業利益21.5億円と調整局面。ただ新規ソリューション売上比率36%で前進。
連動ポイントドイツのスマートファクトリー投資復活でPLC・センサ需要回復余地大。ECB利下げ→設備投資再加速シナリオで恩恵。

投資メモ

  • 需要底入れはまだら、半導体向け設備が戻れば一気にレバレッジ
  • 配当方針は累進的で、株価調整時は配当利回りが魅力になる局面あり

⑥日立製作所(6501)― HVDC覇者「日立エナジー」でドイツ送電網に参戦

項目ハイライト
ドイツとの結びつき子会社Hitachi Energyが独TSOアムプリオンから 20億€超のHVDCコンバータ4基を受注(2024年12月)。
業績2024年度Q3時点で欧州売上 1兆3,762億円(全体の20%)
連動ポイントドイツ再エネ拡大と送電投資急増に直結。HVDCは一案件が巨大で長期収益源になりやすい。

投資メモ

  • HVDCは世界的に案件が積み上がっており、受注→工事→保守まで長期フィー
  • 株価はDX/ITセグメントと重なるため「電力インフラ株」としては割安感あり

どう組み入れる? “ドイツ感度”ポートフォリオの考え方

セクター代表銘柄相関のタイプ想定リスク
工作機械DMG森精機受注サイクル連動(高β)景気後退局面の受注減
電動工具マキタ住宅・DIY連動(中β)建設市況/為替
タイヤブリヂストン自動車販売+原料ゴム・原油高騰
車載電子デンソーEV・ADAS需要OEM側減産
FA制御オムロン設備投資資本投資遅延
電力網日立製作所インフラ長期契約(低β)プロジェクト遅延
  • 高β枠(DMG森精機)+ディフェンシブ枠(日立) といった“バーべル”構成がドイツテーマ投資では有効。
  • 為替は€/円を注視。円安は輸出企業に追い風だが調達コストも鑑みる必要あり。
  • ドイツ政策の進捗確認はBundestag可決スケジュールとECB理事会(6週ごと)をカレンダーに。

ドイツ好調相場を“日本株で獲る”3ステップ

  1. マクロ確認
    • ECB金利と独財政法案の進捗をウォッチ。
  2. セクターバランス
    • 景気敏感×ディフェンスを適度にミックス。
  3. 四半期チェック
    • 紹介6社のIRは日本語開示が豊富。ドイツ向け受注やプロジェクト進捗を定点観測すると「連動度」が体感できる。

ドイツ株高は「金利+財政+新セクター」の三重奏。直接DAX ETFを買うのも手ですが、馴染みのある日本企業で狙えば為替・情報取得両面で優位になります。ぜひ自分の投資スタイルに合った“ドイツ密着銘柄”をポートフォリオに加えてみてください。

よくある質問(FAQ)

QA
ドイツ株と日本株はどのくらい相関があるの?TOPIX と DAX の 5 年ベータはおおむね 0.5~0.6。ただし本稿で挙げた「ドイツ密着銘柄」だけを抜き出すと 0.7 前後まで高まるという試算もあります(DMG 森精機・マキタはとくに高い)。
ECB の追加利下げはいつ?市場では 2025 年 6 月 5 日理事会でも 25 bp 利下げとの見方がコンセンサスです。2024 年 6 月に 3.75 %へ下げて以来 8 回目の利下げになります。
ドイツの“債務ブレーキ”緩和は確定?CDU/SPD/緑の三党が 最大 5,000 億ユーロのインフラ基金創設で合意、防衛費はブレーキ対象外にする方針で、法案は 2025 年 3 月下旬の連邦議会で可決
ドイツに投資するなら DAX ETF とどちらが有利?為替ヘッジを考慮しない前提で、(1) 円安メリットを取りに行くなら日本株、(2) ドイツ新政権の政策をダイレクトに取りに行くなら DAX 連動 ETF がシンプル。流動性は DAX ETFがやや劣る点は留意。

ウォッチリスト:ドイツ関連イベント & 指標

時期イベント/指標影響を受けやすい銘柄
6月5日ECB 定例理事会(追加利下げ観測)DMG 森精機、オムロン(設備投資系)
6月中旬ドイツ連邦議会で債務ブレーキ緩和法案採決DMG 森精機、日立製作所
7月末ドイツ Ifo 景況感指数6 社すべて(景気感度のベンチマーク)
8月~9月フランクフルトモーターショー(EV新モデル発表)デンソー、ブリヂストン
10月ドイツ住宅着工統計(リフォーム補助金効果)マキタ

8. 免責事項

記事は、公開情報をもとに執筆者がまとめたものであり、特定の金融商品の勧誘や売買を推奨するものではありません。投資はご自身の判断と責任において行ってください。市場環境の変化や新たな法規制により、ここで示した見解が将来にわたり成立する保証はありません。

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