【TOB事例】ゴルフダイジェスト・オンラインのMBO背景と今後のMBO候補銘柄3選

【TOB事例】ゴルフダイジェスト・オンラインのMBO背景と今後のMBO候補銘柄3選

ニュースで「ゴルフダイジェスト・オンライン (GDO) がMBOで非公開化へ」といった話題を目にしたかもしれません。今回はこのMBO(マネジメント・バイアウト)について、背景から具体的な内容、そしてこの事例から見えてくる「MBOになりやすい企業の特徴」まで、できるだけわかりやすく解説します。さらに、その特徴に当てはまりそうな上場企業3社も参考として紹介します。

GDOがMBOに至った背景と経緯

2025年5月、ゴルフ関連サービスを展開するゴルフダイジェスト・オンライン(以下、GDO)が東証プライム市場からの上場廃止に向けMBOを発表しました。

経営陣による自社買収(MBO) とは、経営陣(創業者や幹部)が自社の株式を買い取り、株式を非公開化(上場廃止)することです。GDOは2025年5月15日付の取締役会決議で、このMBOの実施を決定し、経営陣側の受け皿会社である「株式会社TGTホールディングス」による株式公開買付け(TOB)を開始すると発表しました。このTOB提案に対し、GDO取締役会は賛同意見を表明し、株主に応募を推奨しています。言い換えれば、今回のMBOは経営陣と会社が合意の上で進める友好的なMBOです。

では、なぜGDOはわざわざ上場をやめてまでMBOを選択したのでしょうか?

背景には、同社が進める事業改革と成長戦略があります。GDOはゴルフ用品販売やゴルフ場予約サービスなど国内外で事業を拡大してきましたが、更なる成長には抜本的な組織改革や大型投資が必要だと判断しました。たとえばガバナンス体制の強化や新規IT投資、海外事業のテコ入れなど、中長期的視点での変革が求められたのです。

しかしこうした改革には時間とコストがかかり、短期的には業績や株価にマイナスの影響が出るリスクもあります。実際、改革の途上で市場の短期志向にさらされると、株価下落や株主からの圧力に悩まされる可能性があります。このためGDO経営陣は「一度上場をやめ、非公開の環境で腰を据えて改革に集中しよう」と決断しましたMBOによる非公開化を選ぶことで、短期的な株価変動に左右されず、長期的な企業価値向上に取り組みやすくなる狙いがあります。

今回MBOの受け皿となったTGTホールディングスは、2025年4月に設立された新会社で、独立系の投資ファンドであるインテグラル株式会社が100%出資しています。インテグラルは経営陣と信頼関係を築き長期支援を行うことで知られ、QBハウス(キュービーネットHD)やスカイマークなど数多くの支援実績がある投資会社です。つまり今回のMBOは、創業社長である石坂信也氏率いる現経営陣インテグラル社のファンドが組んで、GDOを共同で買収するスキームといえます。

MBOの概要 – TOB条件と今後の予定

それでは、発表されたTOB(公開買付け)の具体的な条件を整理してみましょう。以下に主なポイントをリストします。

  • 買付価格:1株あたり430円(発表直前の株価330円前後から約30%のプレミアム)。
  • 買付期間:2025年5月16日~7月3日(35営業日間)。
  • 買付予定株数9,935,407株(発行済み株式のほぼすべて)。下限は3,599,800株(19.69%)で、上限設定はありません。応募が下限株数に満たない場合は不成立となりますが、上限なく全株買付ける予定です。
  • 買付総額:最大で約42.72億円(430円×9,935,407株)。
  • 経営陣の関与GDO創業社長の石坂信也氏(17.73%の株式保有)および主要株主の取締役らは、自らの株式をTOBに応募せず保有を継続する契約です。石坂社長と木村玄一取締役はMBO後も引き続き経営を担う予定と発表されています。

以上がTOBの概要です。買付価格430円は株式市場での直近期値(15日終値330円)に約3割上乗せされた水準であり、株主にとって一定のプレミアム(上乗せ幅)となっています。実際、この発表を受けて翌16日の市場ではGDO株に買い注文が殺到し、株価は一時ストップ高の410円まで急騰しました(TOB価格にさや寄せする動き)。

最終的にTOBが成立すれば、所定の手続きを経てGDO株は上場廃止となります。

経営陣が応募しない旨を表明しているのは、「自分たちの株は手放さずに引き続きオーナーとして経営にコミットする」という姿勢の表れです。石坂社長らは保有株をTOBには出さず、MBO後も引き続き主要株主として残ることで、会社の舵取りを継続する意向です。

一方でインテグラル側はできるだけ他の一般株主から株式を買い集め、最終的には株式併合などの手法で完全子会社化(全株取得)を目指すとみられます。今回下限が19.69%と比較的低く設定されているのは、石坂氏らの持株(合計で30%以上と推測されます)が応募しないことを考慮し、それ以外の株主から20%程度集められればMBOを成立させる狙いと考えられます。

以上がGDOのMBOの背景と概要です。では、こうした事例を踏まえて「どんな企業がMBOになりやすいのか?」を考えてみましょう。

MBOになりやすい企業の特徴

GDOのケースや近年の動向を見ると、MBO(経営陣による自社買収)に至りやすい企業にはいくつか共通点が浮かび上がります。主に「財務面」「経営体制」「株主構成」の3つの観点から特徴を整理してみましょう。

財務面

株価が企業価値に対して著しく割安で放置されていることが多いです。具体的にはPBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る、PERが市場平均より低いなど、資産や収益力に比べ株価が低迷している企業です。

市場で適正に評価されていないと感じれば、経営陣から見ると「この安い株価で自社を買い戻したい」というインセンティブが働きやすくなります。また、安定した収益基盤やキャッシュフローを持つ会社もMBOが起きやすい傾向があります。安定収益があれば、銀行からの借入や投資ファンド出資を受けても返済のメドが立ちやすく、非公開化後も財務的に無理なく経営を続けられるためです。

経営体制

オーナー経営色が強い(創業者や経営陣の持株比率が高い)会社はMBOに踏み切りやすい傾向があります。創業家や経営幹部が大株主の場合、株価低迷による企業価値毀損は経営陣自身の損失でもあるため、「それなら自分たちで株を買い集めてでも会社を良くしたい」という動機が生まれやすいのです。

また経営陣が強い理念や長期ビジョンを持つ場合、株式市場の短期志向や上場維持コストが障壁になることもあります。「上場をやめて独自戦略で改革や成長投資に集中したい」と考える経営者も少なくありません。最近では東証がPBR1倍割れ企業に改善策を求める動きを強めたり、海外アクティビスト(物言う株主)が台頭したりと、経営陣へのプレッシャーが増しています。経営の自由度や独立性を守るため、思い切って非上場化を選択するケースが増えつつあります。

株主構成

経営陣や創業家に近い立場の株主が大勢を占めている企業も、MBOを実行しやすい下地があります。例えば創業家が筆頭株主であったり、親族や役員がまとまった株式を保有しているケースです。こうした企業では、いざMBOとなっても反対株主が出にくく合意形成がしやすい傾向にあります。また浮動株が少なく機関投資家の持ち株比率が低いと、TOBで株式を買い集めやすくなるため、結果的にMBOを実現しやすくなります。

以上をまとめると、株価が割安でキャッシュリッチ」「オーナー色が強く自社株を多く持つ」「株主が経営陣寄りでまとまっているといった条件が重なる会社は、経営陣がMBOに踏み切る可能性が高まると言えるでしょう。

では、具体的にどんな企業がこれに当てはまりそうか、いくつか例を見てみましょう。

MBOの可能性がある上場企業3選

ドウシシャ (7483)

  • 概要: 生活雑貨や家庭用品の企画・卸売を手掛ける専門商社です。自社開発のプライベートブランド商品を成長の柱とし、量販店向けのブランド品卸売も展開しています。直近の業績では増収増益を続けており、2026年3月期は売上高・利益ともに5年ぶりに過去最高を更新する見通しです。配当も年100円に増配予定で、株主還元も強化しています。
  • MBOの可能性がある理由: 株価の割安さが際立ちます。PBRは約0.91倍、PERも一桁台と低水準で、株式市場で企業価値が適正に評価されていない可能性があります。加えて自己資本比率が85.8%と極めて高く、豊富なキャッシュを有する堅実な財務体質です。支配構造の面でも創業家の影響力が強く、創業者系の「エムエス商事」が約34%の株式を保有する筆頭株主となっています。創業家が経営に深く関与するオーナー企業であり、株価低迷による企業価値毀損は経営陣自身の不利益にも直結します。そのため、市場の低評価から自社を守り長期戦略を遂行するため、経営陣主導で株式を買い集め非公開化に踏み切るインセンティブが働きやすいと考えられます。
  • 指標: PBR:約0.91倍、予想PER:約11.9倍と割安水準。配当利回りは約4.4%と高く、安定した利益から厚い配当を継続。時価総額は約851億円。
  • コメント: 東証からの「PBR1倍割れ企業」改善要請も追い風となり、創業家主導の企業価値向上策が期待される銘柄です。実際に専門家の分析でも「純資産に比して株価が低迷している典型例」と指摘されており、現経営陣によるMBOの潜在候補として名前が挙がる企業の一つです。直近業績も好調で資金調達余力も十分なことから、今後外部からの株主圧力が高まった場合に経営陣自ら非公開化を選択する可能性は十分に考えられます。

コーナン商事 (7516)

  • 概要: 西日本地盤のホームセンター大手で、「コーナン」ブランドの店舗を全国展開しています。住宅用品・DIY用品など幅広い商品を扱い、店舗数は近年拡大中です。直近の2025年2月期は営業収益5,014億円(前年+6.1%)、営業利益250億円(同+3.8%)と増収増益を達成し、自己資本比率も34.6%に向上しました。次期も増収増益を見込むなど安定成長を続けています。
  • MBOの可能性がある理由: 株価水準の割安さが目立ちます。PBRは約0.66倍と解散価値の半分程度の評価しかなく、予想PERも7.5倍前後と低水準です。配当利回りも約3.4%と適度な水準で、財務も自己資本比率約33~35%と健全です。支配構造の点では、創業家によるオーナー経営色が強いことが挙げられます。同社は創業者の疋田耕造氏が設立し長年率いた企業で、現在は長男の疋田直太郎氏が社長職を継承しています。創業者は相談役となった今でも強い発言権を保持しており、経営の実権は創業家が握っています。このため経営意思決定が迅速で、株式非公開化による自由度の高い経営を志向しやすい土壌があります。市場から適正な評価が得られず株主要求が高まるような局面では、創業家が中心となりMBOに踏み切る可能性があると考えられます。
  • 指標: PBR:約0.66倍、予想PER:約7.5倍。配当利回りは約3.42%(年130円配当)。時価総額は約1,317億円。いずれも業界大手ホームセンターとしては割安な指標です。
  • コメント: 株主還元にも積極的で、増配や優待を実施しつつも依然として株価純資産倍率は1倍を大きく下回っています。創業家の強いリーダーシップの下、ニトリ創業者を社外取締役に迎えるなど経営改革にも前向きで、企業価値向上の余地が大きいと見られます。現時点で具体的なMBO観測報道は出ていませんが、オーナー企業かつ低PBRという条件から潜在的なMBO候補の一つと言えるでしょう。市場環境や提携戦略次第では、創業家主導で非公開化を検討する可能性も否定できません。

カナモト (9678)

概要: 建設機械・機材のレンタル業大手で、北海道発祥の企業です。国内外で建機レンタルや鉄鋼製品の販売を展開し、インフラ工事や建設需要を支えています。業績は安定傾向で、足元では連続増収・増益を背景に5期以上の連続増配を達成しています。2025年10月期の予想は売上高1,100億円超・営業利益100億円超と堅調で、財務も自己資本比率40%台と健全です。

MBOの可能性がある理由: 株式価値の割安さオーナー経営がポイントです。株価指標面ではPBRが約0.8倍と純資産に比べ大幅に割安に放置されており、予想PERも12倍程度と同業比でも低水準です。配当利回りはおよそ2.5%ですが、安定増配傾向で株主還元姿勢は良好です。支配株主構造としては、創業家の金本氏一族が経営トップを務めています。現会長の金本寛中氏と社長の金本哲男氏はいずれも創業家出身で、会社創設以来一貫して金本家が経営権を握るオーナー企業です。もっとも大株主上位は信託銀行など機関投資家で占められ、創業家の持株比率自体は公表ベースでは目立ちませんが、経営陣の影響力は極めて強いとみられます。市場からの評価が資産価値に見合わない状態が続く場合、創業家経営陣が企業価値向上策として非公開化を検討する可能性があります。

指標: PBR:約0.80倍、予想PER:約12倍。配当利回りは約2.5%(年80円配当予想)。時価総額は約1,240億円規模。株価は解散価値以下に低迷し、指標面で割安感が顕著です。

コメント: 国内インフラ更新需要や建設DX化など追い風がある中で株価が割安な点は、今後物言う株主(アクティビスト)からの提案やTOBのターゲットになり得る状況です。実際、同業ではオーナー企業のワキタなどが低PBRを理由にMBO観測の声が上がった例もあります。カナモトも類似の条件を備えており、現経営陣としては上場維持コストや外部干渉を嫌って自主的なMBOに踏み切る可能性も否定できません。もっとも、安定株主も一定数存在するため実行にはハードルもありますが、潜在的な候補として注目される銘柄です。このように低い株価で外部株主からあれこれ要求されるより、自ら株式を買い集めて非上場化し、長期視点で事業構造改革や資産価値の開放を進めたいというインセンティブがあると考えられます。そのためベルーナもMBOによる株式非公開化の潜在候補の一つとみられています。

おわりに:MBO事例から学ぶ視点

今回のGDOのMBO事例と、共通点を持つ企業の例を見てきました。紹介した3社はいずれも経営陣の持株が多く安定経営だが、市場評価が低い」という共通項があります。もちろん、実際にMBOに踏み切るかどうかは外部環境や資金調達の状況にも左右されますが、経営陣が企業価値向上のため非公開化を選択肢に入れるとすれば、こうした条件を満たす銘柄が有力候補になってくるでしょう。

ただし、MBOはあくまで企業側の戦略的判断によるものであり、必ずしも事前予想どおりに起きるわけではありません。またMBOが発表されると短期的に株価は急騰しますが、そのタイミングを事前に正確に当てるのは困難です。したがって「MBO期待だけを狙った投資」はリスクも伴う点に注意が必要です。

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