【TOB事例】長谷工によるウッドフレンズTOBから見る今後のTOB予想銘柄3選

【TOB事例】長谷工によるウッドフレンズTOBから見る今後のTOB予想銘柄3選

2025年4月10日、マンション建設シェア首位の長谷工コーポレーションが、名古屋地盤の木造戸建てビルダー ウッドフレンズ(証券コード8886)を 1 株1,720円で公開買付(TOB) し、完全子会社化を目指すと発表しました。買付期間は4月11日~5月27日、買付代金は約25 億円。前日終値に対するプレミアムは81%にも達します。​

本稿では 「なぜウッドフレンズが狙われたのか」「長谷工は何を得ようとしているのか」 を丁寧にひも解き、TOB銘柄を探す際に使える“着眼点”を整理します。


取引のざっくり概要

項目内容
買付者長谷工コーポレーション
対象ウッドフレンズ(東証スタンダード&名証メイン)
価格1株1,720円
プレミアム終値比 約+81%**
期間4/11 ~ 5/27(30営業日)
下限発行済み株式の66.67%(972,100株)
代金25億円

TOB成立後はスクイーズアウトを経て上場廃止予定。​


買い手を知る――長谷工コーポレーションとは

  • マンション建設累計69万戸超、首都圏施工シェア35%前後とされる分譲マンションの絶対王者。​
  • 「設計・建設・販売・管理・修繕」をワンストップで回せる垂直統合モデルが強み。
  • 2020年に細田工務店をTOBで子会社化し、木造領域を学習中。ウッドフレンズが加われば技術・調達双方で一気に裾野が広がる。

売り手を知る――ウッドフレンズの特徴と課題

  • 名古屋圏で木造戸建て・注文住宅を展開。売上の9割弱が戸建事業。​
  • 国産材の自社プレカット工場「森の工場」を持ち、林業~建築~販売まで一気通貫する“製造小売”モデル。
  • 近年は用地取得競争と資材高、在庫負担で業績が悪化。原価上昇を転嫁し切れず、2022年以降は利益率が低迷していた。
  • 筆頭株主は創業家資産管理会社ベストフレンズ有限会社(42%)。大株主の過半がファミリー・役員関係者で、浮動株が少ない典型的な地方ハウスメーカー。​

取引の背景――三つのキーワード

(1) 「木質化」×「カーボンニュートラル」

長谷工は環境負荷の低い木造・木質化をグループ重点テーマと位置づけています。ウッドフレンズはまさに国産材カスケード利用を掲げる会社。理念と現場力が噛み合うため、買収後は長谷工式ハイブリッド木造マンションなどの共同開発が加速するとみられます。​

(2) 「東海エリア強化」

長谷工はマンションで全国網を敷くものの、戸建分譲では関東・関西に比べ東海の存在感が薄い状況でした。名古屋に地盤を持つウッドフレンズ取り込みで、三大都市圏を戸建でも均等にカバーできます。​

(3) 「製造小売の内製化」

木材を原木から加工できる工場ラインを買うことは、サプライチェーンの川上を手中に入れる意味を持ちます。「2030年までに木質化率◯%」といったサステナ目標を掲げる長谷工にとって、自前の調達ルートは中長期的な競争優位そのものです。


プレミアム81%は高い?――バリュエーションの読み解き

KPMGが提示した1 株価値レンジ

  • 市場株価法:900~1,065円
  • DCF法:1,287~2,093円

TOB価格1,720円は、株価法レンジ上限比+61%、DCF中間点にほぼ沿う水準。長谷工側が提示した大幅プレミアムは「創業家が一気に売り抜けてもおかしくない水準」であり、少数株主の反対リスクを最小化した“確実に取る”価格といえます。​


市場の初動とその意味

発表翌営業日、ウッドフレンズ株はストップ高買い気配。TOB価格との差はほぼサヤ無しで張り付いたため、マーケットは「成立確度が極めて高い」と判断したわけです。​


「TOBされやすい会社」の7条件――本件をヒントに

条件ウッドフレンズポイント
時価総額が小さい(概ね50~100億円未満)約30億円買収コストが低い
ファミリー色が強い創業家42%交渉相手が少数で済む
浮動株が少ない約20%前後TOB成立ハードル低い
ニッチ地域・セグメントでブランド確立名古屋戸建て買い手の白地市場を補完
事業に伸びしろがあるが投資負担が重い木質資源カスケード構想親会社の資金力で加速
業績が一時的に低迷利益率低下プレミアムを乗せやすい
買い手側の成長戦略とピタリ一致木質・東海強化シナジー訴求が明快

これらは今後TOB候補を探すうえで“チェックリスト”として流用できます。


過去事例と照らす「長谷工の地方ビルダー狩り」

案件狙い
2020細田工務店(東京・木造戸建て)木造技術獲得
2025ウッドフレンズ(名古屋・木造戸建て)木材調達+東海展開

両社とも①木造技術を持つ戸建ビルダーかつ②ファミリー株主の比率が高いという共通点が見えます。長谷工が「木造+戸建て+地盤拡大」という軸でM&A戦略を描いていることが浮き彫りです。


投資家が今日からできる3つの着眼点

  1. 「大手が弱い地域」を補完するプレイヤー
    • 首都圏の大手が地方の専門会社を物色する動きは続く。
  2. 「ファミリー比率×浮動株10~20%」の小型株
    • 交渉コストが低く、高プレミアムが出やすい。
  3. 「ESGトレンドと直結する固有技術」
    • 木質化、再エネ、リユースなど大手のSDG施策に刺さる技術・ネットワークを持つ会社は常に候補。

まとめ――TOBウォッチャーが得るべき“法則感覚”

長谷工×ウッドフレンズの案件は、単なる親子上場解消ではなく、「環境×地域×技術」という3方向からの補完関係がカチッとはまった好例です。TOBプレミアムは高いものの、以下の方程式が満たされたとき、買い手は迷わず札束を切ると理解しておきましょう。

【買い手が薄いピース】+【売り手の強み】+【ESG・政府方針との親和】
= 高確率&高プレミアムTOB

今後も同系統の動きを追うことで、「次のTOB銘柄」を精度高く予測できるはずです。当ブログでは今回のように“事例深掘り”を重ね、TOB予想の成功率をさらに高めていく予定です。ぜひブックマークして続報をお待ちください!


ウッドフレンズに類似するTOB候補企業3社

ウッドフレンズの長谷工コーポレーションによるTOB事例にならい、地方地盤木造住宅や住宅分譲を主力とし、時価総額が小さく創業家の影響力が大きい(浮動株が少ない)上場企業を3社選定します。それぞれ、TOB候補と考えられる理由を簡潔に説明します。

土屋ホールディングス (東証スタンダード・コード1840)

北海道地盤の注文住宅メーカー。 土屋ホールディングスは傘下の土屋ホームを通じ、北海道を拠点に木造注文住宅の建築・販売を手掛ける住宅会社です。時価総額は約58億円と小型で、PBRも0.5倍前後と純資産に対して割安な水準にあります。創業者一族が経営しており、創業者の土屋社長に関連する企業(例:土屋総合研究所など)が株式をまとまって保有しているため浮動株比率が低いとみられます。業界大手の積水ハウスが資本参加(約6%出資)を発表するなど、大手との提携・買収の思惑が浮上しており(​kabutan.jp)、地方の有力ハウスビルダーとしてTOBによる完全子会社化の候補になり得るでしょう。

AVANTIA (東証スタンダード・コード8904)

東海圏地盤の戸建て分譲中堅。 AVANTIA(旧社名:サンヨーハウジング名古屋)は名古屋市に本社を置き、東海エリアを中心に戸建住宅の分譲・注文住宅事業を展開する中堅ビルダーです。時価総額は約115億円程度で、PBR約0.4倍・配当利回り約5%と株価指標面で割安感があります。創業家の影響力が強く、筆頭株主の「SKエイト」という創業者関係会社が約28%の株式を保有しており、少数の大株主で株式の過半近くを固めています。このように浮動株が少ないことや業績に対する市場評価の低さから、大手不動産・住宅企業によるTOBの対象となり得ます。実際、ウッドフレンズと同様に地域密着型であることから、事業シナジーを狙った買収提案が出ても不思議ではありません。

ファースト住建 (東証スタンダード・コード8917)

関西地盤の戸建分譲会社。 ファースト住建は兵庫県尼崎市に本社を置き、主に関西圏で一次取得層向けの戸建分譲住宅(建売住宅)の企画・建築・販売を行う企業です。近畿圏のほか愛知や福岡など全国に事業を広げています。時価総額は約178億円で、PBR約0.37倍・配当利回り約4%と割安な水準にあり、株価面での評価余地が大きいと言えます。創業家の色彩が強く、代表取締役の中島氏が率いる中島興産が約28%の株式を保有する筆頭株主となっており、経営陣・創業者側で株式の多くを握っています。浮動株が少ないため買収が容易な構造であり、土地付き戸建分譲に強い地域密着企業として、**大手デベロッパーによる取り込みや経営陣によるMBO(マネジメント買収)**の候補として注目されます。ウッドフレンズ同様に創業家の意向次第でTOBが現実味を帯びる企業と考えられます。

参考・引用

  • ロイター「長谷工、ウッドフレンズを完全子会社へ 1株1720円でTOB」​
  • フィスコ「ウッドフレンズ—ストップ高買い気配、長谷工が完全子会社化目指してTOB」​
  • TDnet開示「株式会社長谷工コーポレーションによる株式会社ウッドフレンズ株式に対する公開買付けに関するお知らせ」PDF(抜粋)
  • 会社四季報オンライン ウッドフレンズ企業プロフィール​
  • 長谷工コーポレーション沿革・マンション施工実績記事​

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