
前回に「【TOB事例】芝浦電子TOB解説:温度センサトップ企業の買収劇と次の狙われる企業(3銘柄)とは」の記事で芝浦電子のTOB合戦についてお伝えさせていただきました。その後の続報がアップデートされましたので、今回はその後どうなったかについてお伝えさえていただきます。
今回のポイントをざっくり
- ヤゲオ(台湾) が 5 月 8 日に TOB 価格を 5,400 円 → 6,200 円 に再引き上げ、9 日から買付開始と正式発表
- ミネベアミツミ(日本) は 5 月 1 日に 4,500 円 → 5,500 円 へ増額済み。次の一手は未表明
- 初回 4,300 円提示(2 月 5 日)からわずか 3 か月で 約+44% の大幅プレミアム
- 背景は 競合買収者どうしのオークション化+高いシナジー期待+敵対的色の強さ
- 今後は ①ヤゲオで決着、②ミネベア再増額、③長期化/撤退――の三つのシナリオが焦点
TOB攻防タイムライン
今回のTOB価格再引き上げに至るまでの経緯を、主な出来事と提示価格の推移とともに振り返ってみましょう。
- 2025年2月5日:ヤゲオがTOB計画を発表 – 1株4,300円でのTOB実施を表明。事前に相手企業へ連絡のない「同意なき買収」(いわゆる敵対的TOB)としての提案でした。
- 2025年4月10日:ミネベアミツミが白馬の騎士として名乗り – ミネベアミツミが1株4,500円でのTOB計画を発表。ヤゲオの「同意なきTOB」に対抗するホワイトナイト(友好的買収者)としての登場であり、芝浦電子取締役会もミネベアミツミ案を支持する方針を表明しました。
- 2025年4月中旬:ヤゲオ、提示価格を5,400円に引き上げ示唆 – ミネベアミツミの対抗参入を受け、ヤゲオは提示額を一気に5,400円へ引き上げる姿勢を示します。ヤゲオ側は「最初の4,300円提案でも十分なプレミアムと考えていたが、5,400円に上げた今でも投資回収に自信がある」と強調し、買収に強い意欲を見せました。
- 2025年5月1日:ミネベアミツミ、さらなる上積えで5,500円に – ヤゲオ5,400円案に対抗し、ミネベアミツミは1株5,500円への引き上げを発表。友好的買収者として容易に引き下がらない姿勢を示し、ヤゲオ提案額を100円上回る価格で応戦します。この時点で市場では「買収価格吊り上げ合戦」の様相が強まりました。
- 2025年5月8日:ヤゲオ、最終局面で6,200円に再引き上げ – そして今回のヤゲオによる6,200円への再引き上げ発表に至ります。ミネベアミツミの5,500円提案を大きく上回る価格提示で、事実上再度のオークション状態となりました。ヤゲオは翌9日から正式にTOBを開始し、買付期間は当初予定通り約30営業日(~6月中旬)と見られます。
以上のように、この数ヶ月でTOB価格は当初案の4,300円から最終的に6,200円へと約44%も引き上げられる異例の展開となりました。下表に主要な提案の推移をまとめます:
公表日 | 買収者 | 提示価格 | 主な出来事 |
---|---|---|---|
2 / 5 | ヤゲオ | 4,300 円 | 経営陣との事前協議なしで敵対的 TOB 表明 |
4 / 10 | ミネベアミツミ | 4,500 円 | 白騎士として友好的 TOB 宣言 |
4 / 17* | ヤゲオ | 5,400 円 | 報道で増額方針が判明 |
5 / 1 | ミネベアミツミ | 5,500 円 | 100 円上乗せで対抗案正式発表 |
5 / 8 | ヤゲオ | 6,200 円 | 最新提案。翌 9 日から買付開始 |
なぜここまで価格がつり上がるのか?
- 競合入札のオークション効果
複数買収者が同じ標的を取り合うと、株主にとっては“高値札”が次々提示される入札合戦になりやすい。今回はヤゲオの敵対的提案に対し、ミネベアミツミが白騎士として参戦した典型例。 - 高いシナジー期待
ヤゲオは受動部品大手、芝浦電子は温度センサー(サーミスタ)で世界首位級。製品補完と自動車・産業向け販路拡大の相乗効果が大きい。ヤゲオは「投資回収に十分自信」と公言。 - 経営陣の“NO”がプレミアムを押し上げる
芝浦電子の取締役会はヤゲオ案に反対し、ミネベア案を支持。経営陣賛同が得られない敵対的局面では、買収者は価格で株主を説得するしかない。 - 少数浮動株主の比率が高い
創業家などの支配権が薄い上場企業ほど、株主の経済合理性=高値売却が働きやすく、価格競り上げに弾みが付く。
価格“吊り上げ型”TOBの共通パターン
チェックポイント | 芝浦電子案件での該当度合い |
---|---|
複数の買収候補が存在 | ◎(ヤゲオ vs. ミネベアミツミ) |
標的企業にコア技術・ブランド | ◎(サーミスタ世界シェア約30%) |
敵対的提案で経営陣が反対 | ◎ |
浮動株主構成比率が高い | ○ |
規制リスクが低め(独禁・安保) | ○(部品業界で重複少ない) |
こうした条件が重なると、買収側は「多少高くても絶対取る」インセンティブが強まり、結果として今回のような +40%超のプレミアム へとつながりやすいわけです。
これからの3シナリオと株主の選択肢
シナリオ | 概要 | 個人株主の着眼点 |
---|---|---|
① ヤゲオ 6,200 円で決着 | ミネベアが追随せず撤退。ヤゲオが過半取得→上場廃止へ | TOB 応募で 6,200 円確定。上積み余地は小、リスクも限定 |
② ミネベアが再増額(例:6,500 円超) | 最終防衛策として更なる高値札を提示 | 株価もう一段上振れも、1,000 億円規模の買収額で採算疑問。ヤゲオが再々応札の可能性 |
③ 競り合い長期化/両社撤退 | 高値負担を嫌い双方手打ちor独禁リスク浮上 | 株価急落リスク。ホールド勢は損切りタイミングに注意 |
- 現在の株価は 6,150 円前後 と TOB 価格に横付け状態。市場は “次の一手” を五分五分で織り込む。
- TOB 応募 なら手数料ゼロで確実に現金化。
- ホールド なら上乗せ益を狙える一方、①決着・②撤退時の下落リスクも。
- いずれにせよ、上場廃止後の流動性リスク と 譲渡益課税のタイミング も要確認。
まとめ:冷静な材料整理が勝ちパターン
芝浦電子をめぐる買収劇は、短期で価格が急騰する典型的な“吊り上げ型 TOB” となりました。個人投資家にとっては大きな含み益が生じる一方、次の局面をどう読むか が難しい状況です。
- 上振れ期待+リスク許容 → さらなる高値提案に賭けてホールド
- 確実性重視 → 今回の 6,200 円 TOB に応募して利益確定
いずれを選ぶにしても、最新開示・競合の動き・規制審査の進捗 をウオッチしながら、「自分の投資スタンス」と「リスク許容度」に照らして決断する必要がありますが、今後の展開がどうなるか、またわかり次第続報としてお伝えさせていただきます。