【さくらショック?】生成AIブームとGPU需要停滞リスク:日本データセンター業界への影響分析
2025.07.29投稿

さくらインターネットの大幅下方修正で激震が走っていますが、データセンター業界全体に波及する状況になるのでしょうか?
今回は、さくらインターネットの下方修正の背景を考察することで、データセンター業界の直近の状況を確認してみたいと思います。
生成AIブームによる国内GPU需要の拡大と市場予測
2023年末のChatGPT登場以降、生成AIへの注目と開発投資が世界的に加速し、それを支えるGPU計算資源への需要も急増しました。日本国内でも、官民問わずAI用途のGPUインフラへの投資が相次ぎ、2024年のエンタープライズ向けインフラ市場は前年比51.3%増の約1.29兆円に達しました。
特にGPU搭載サーバーの大型案件が市場を牽引し、ハイパースケーラー(超大規模事業者)や政府支援を受けた国内サービスプロバイダーによる大規模投資が続いたとされます。富士キメラ総研の調査によれば、国内GPUサーバーおよびGPUクラウド市場は2024年度に約1,697億円、2028年度には約5,003億円と5年間で10倍以上に拡大する見通しとなっています。
実際、国内では大学・研究機関やAIベンチャー企業が数十台規模のGPUサーバーを導入し始めており、大規模言語モデル(LLM)開発や生成AIサービスの需要に応える形で「AIデータセンター」の建設ラッシュが起きています。
こうした生成AIブームは、データセンター業界にとって新たな成長ドライバーとなり、2024年前半には関連株が急騰するなど市場の期待も高まりました。
しかしながら、中長期的な需要予測には慎重な見方もあります。
GPUサーバーは1台数千万円以上と高額で、冷却設備など維持費も莫大なため、本格普及には時間がかかり国内での需要拡大は緩やかなペースになるとの指摘があります。実際、IDC Japanは2025年の国内インフラ市場は前年(2024年)のような大型案件がなく一時的にマイナス成長になると予測しており、その後は緩やかな成長に戻る見通しとしています。
つまり、2024年にピークだった生成AI向けGPU需要は、一時的な踊り場を迎える可能性があります。この背景には、国内企業が必要とする最先端GPUの確保が容易でない(いわゆる「GPU買い負け」)ことや、生成AIの商用活用が想定より遅れている点も挙げられています。
こうした需給ギャップがある中で、各社が拡大させたGPUインフラが一時的に過剰となるリスクも指摘されています。
データセンターの状況:高密度化と電力・冷却の課題
生成AI向けGPUサーバーの需要急増は、データセンターの設計と運用に大きな変化をもたらしています。従来の汎用サーバーに比べ、GPUサーバーは圧倒的に高い電力消費量と発熱量を伴います。
これにより、データセンター事業者は、高密度なラック配置、大容量の電力供給、そして高度な冷却システムの導入を迫られています。
- 高密度化の進展: 多くのデータセンターでは、1ラックあたりの電力供給能力を従来の数kWから、GPUサーバー対応のために10kW、20kW、あるいはそれ以上に引き上げています。これにより、限られたスペースでより多くの計算能力を提供することが可能になりますが、設備投資は増大します。
- 電力供給の強化: GPUサーバーの電力需要は非常に高く、データセンター全体での電力契約容量の増強が不可欠です。都市部では電力確保が困難な場合もあり、地方へのデータセンター建設が加速する一因となっています。
- 冷却システムの革新: 空冷だけではGPUの効率的な冷却が難しくなり、液浸冷却や水冷システムといったより効率的な冷却技術の導入が進んでいます。これらのシステムは初期投資が高いものの、運用コストの削減やPUE(Power Usage Effectiveness)の改善に貢献します。
- AIデータセンターの台頭: GPUに特化した「AIデータセンター」と呼ばれる施設が次々に建設されています。これらはGPUの性能を最大限に引き出すために、高速なネットワークインフラ(InfiniBandなど)や、専用のラック、冷却設備などを備えています。
しかし、これらの高機能なデータセンターを建設・運用するには莫大なコストがかかります。需要が一時的に停滞した場合、過剰な設備投資が遊休資産となり、減価償却費や維持管理費が収益を圧迫するリスクも存在します。
特に、最先端のGPUを大量に導入したデータセンターでは、顧客が定着しなければ投資回収が難しくなるでしょう。
各社のGPUインフラ投資動向と稼働状況
生成AI需要を見込んで、日本の主要データセンター事業者は競ってGPUインフラへの投資・サービス展開を進めてきました。その状況と現状をまとめると以下の通りです。
データセクション(AIデータソリューション・AIインフラプロバイダー)
データセクションは、AI・ビッグデータ分析の知見を活かし、国内のAIインフラストラクチャにおける主要プロバイダーとしての地位確立を目指しています。2025年7月4日には、NVIDIA B200 GPU(5,000個)を搭載したサーバー(625台)の調達に成功し、大阪府内に日本初かつアジア最大級となる100 ExaFLOPS(エクサフロップス)を超える計算性能(FP4)を持つAIスーパークラスターを構築すると発表しました。
これはNVIDIAの最新Blackwell B200テクノロジーを活用し、日本およびアジア太平洋地域全体の企業向けにエンタープライズグレードのAI計算サービスを提供することで、高性能AI計算インフラ不足に対応することを目的としています。
同社は、アジア有数のサーバー機器サプライヤーであるGIGA Computing Co., Ltd.との戦略的パートナーシップにより、GPU搭載サーバーの安定供給を確保しています。さらに、AIワークロード向けの大型GPUクラスター運用を最適化する独自アルゴリズムシステム「TAIZA」を開発し、リソース利用率の向上、運用コストの削減、パフォーマンスの信頼性向上を実現し、競争優位性を強化しています。
また、海外展開にも積極的であり、2024年にはスペインのSOLARIA ENERGIA Y MEDIO AMBIENTE, S.A.とプエルトリャノでAIデータセンター設立に関する基本合意の調印式を実施しています。初期40MW、最大200MWの電力供給を計画しており、グリーンコンピューティングの実現を目指すとしています。
AIデータセンターの構築資金として、顧客からの前受金と借入金を充当する予定であり、巨額の投資を伴うため、今後の設備稼働率と収益化の動向が注目されます。
さくらインターネット(独立系DC事業者)
2024年から数年で総額約659億円を投じ、大規模GPUクラウド基盤「高火力」シリーズの構築に着手。
NVIDIA H100/H200 GPU計2,000基規模で計算能力2.0EFLOPS超を整備し(将来的に約18.9EFLOPSまで拡張計画)、政府の経済安保支援(NEDO補助金最大575億円)も受けて「国産クラウド」強化を図りました。
サービスは主にGPUベアメタル提供で、生成AI開発企業や官公庁案件を取り込み急成長していました。事業セグメント売上は全社の約20%を占めるまで拡大しました。
しかし2025年7月、大型GPU案件の終了により当該サービスの売上予想を158億円→85億円に半減させ、通期営業利益予想も91.6%減益へ下方修正しています。継続を期待した案件が突如終了し、GPU設備の稼働率低下による売上鈍化が要因です。
これは同社にとって大きな誤算であり、GPUクラウド設備の一部が遊休化する状況になっています。
GMOインターネットグループ(インターネットサービス大手)
2024年11月に国内最速級の商用GPUクラウド「GMO GPUクラウド」を開始。NVIDIA最新世代H200 GPUを約800基調達し提供開始し、ロボット開発や自動運転AI開発基盤など多数の用途で採用されました。
需要拡大を見込み2025年末に向け追加で256基のH200 GPU導入(約15億円投資)を決定するなど積極拡張中です。稼働率は公表されていませんが、追加設備投資を発表したことから需要に対し逼迫気味であると推察されます。
グループ全体ではドメイン・決済等多角事業の一環であり、GPUクラウド単体の業績比率は大きくありませんが、新たな成長領域として重視しています。
IIJ(インターネットイニシアティブ)(通信/クラウド中堅)
インターネットイニシアティブ(IIJ)は、生成AIやデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展に対応するため、千葉県白井市にある「白井データセンターキャンパス」の増強を進めています。このデータセンターは、IIJのクラウドサービスやハウジング事業の基盤となる重要な施設であり、特にAI用途の高消費電力GPUサーバーの収容にも対応しています。
白井データセンターキャンパスは、IIJが展開するクラウドサービスやハウジング事業において重要な役割を果たしています。これまでに、2棟のデータセンターが稼働しており、2026年度中には新たな3期棟の運用開始が予定されています。
棟番号 | 開設時期 | 収容ラック数 | 最大受電容量 | 特徴 |
---|---|---|---|---|
1期棟 | 2019年5月 | 約700ラック | 10MW(最大50MWまで拡張可能) | 外気冷却空調方式、N+1冗長UPS |
2期棟 | 2023年7月 | 約1,100ラック | 同上 | 高密度電力対応、GPUサーバー収容対応 |
3期棟 | 2026年度中予定 | 約1,000ラック | 同上 | 水冷Ready設計、フレキシブル天井採用 |
3期棟の特徴と設備
2026年度中に運用開始が予定されている3期棟は、AIやGPU用途の高消費電力サーバーに対応するため、最新の冷却技術と高密度電力供給システムが導入されます。具体的な特徴は以下の通りです。
- 受電容量:10MW(最大25MWまで拡張可能)
- 収容ラック数:約1,000ラック
- 冷却方式:従来の外気冷却に加え、GPUサーバーの高発熱に対応する「水冷Ready設計」
- フレキシブル天井:ラック配置や天井開口位置を柔軟に変更可能
また、データセンター内にはAIやロボットを活用して業務の自動化が進められており、入退館受付の約7割が自動化されています。これにより、オペレーターの負担軽減と業務効率化が実現しています。
NTTグループ(通信・IT最大手)
グループ内で複数のGPUインフラサービスを展開。NTTコミュニケーションズは次世代フォトニックネットワークIOWNを活用し、都内複数DCを100Gbps高速回線で結んだ分散GPUクラスタ環境を構築し大規模生成AI学習の実証を行いました。
NTTデータは企業向けにNVIDIA最新GPUを搭載した大規模機械学習基盤のクラウド提供を開始し、自社DCから専用クラウドとしてGPUリソースを月額課金で提供しています。またNTT傘下のNTTコムウェア/NTTPCなどもGPUクラウドサービス(WebARENA Indigo GPUなど)を展開しており、H200 GPU 8基搭載サーバを1台単位で月額278.3万円から利用可能とする低コストIaaSを提供しています。
NTTグループは資本力もあり官民の大型案件を複数抱えるため、設備稼働率が極端に低下するリスクは分散されていますが、各サービスの採算や需要動向については引き続き注視が必要です。
GPU需要鈍化による業績未達・下方修正リスク
上記のように各社が競ってGPUインフラを拡充する中、需要の伸び悩みや想定外の契約終了が生じた場合、売上計画未達や業績下方修正のリスクが顕在化します。今回、さくらインターネットが示したケースはその典型で、生成AI向け大型案件に依存した収益計画が途絶したことで、一気に営業益が「9割減」という深刻な下振れに直面しました。
同社はGPUクラウド事業拡大を前提に大規模投資を進めていただけに、機会損失だけでなく遊休設備の維持コストも重荷となります。富士キメラ総研の予測でも、国内でGPUサーバーが本格普及するには時間を要するため「成長は緩やかになる」とされており、設備を先行させすぎた場合には稼働率低下による採算悪化が懸念されます。
では、他の事業者も同様の下方修正リスクを抱えるのでしょうか。
結論として、程度の差はあれ潜在的なリスクは共有していますが、各社の事業構造によって影響度は異なると考えられます。
GMOインターネットのGPUクラウド事業はグループ全体から見れば規模が小さく、仮に需要が想定以下でも全社業績への影響は限定的でしょう。しかし、新サービスゆえ成長期待が織り込まれているため、計画未達の場合には投資回収期間の長期化や追加投資判断の見直しにつながる可能性があります。
IIJは主にコロケーション(ハウジング)収入としてGPU需要を取り込んでおり、契約がつけば安定収益になりますが、逆に拡張したスペースが埋まらなければコスト負担となります。同社は既存クラウド顧客の需要増で徐々にラックを埋める戦略のため急激な未達リスクは低いものの、想定より充足が遅れれば減価償却負担が先行する展開もありえます。
NTTグループは総合力で需要を創出できる立場にあり、政府系案件なども獲得しやすいため稼働率確保の余地は大きいでしょう。ただし各事業部門ごとに見ると、例えばNTTデータのAIインフラサービスがお客様獲得に苦戦すれば、部門収益計画の下振れ要因にはなります。
データセクションに関しても、大規模なGPUサーバー調達とデータセンター構築は、多額の初期投資を伴います。特に「アジア最大級」の規模を目指すだけに、その稼働率が収益に直結します。特定の「世界最大規模のクラウドサービスプロバイダー」からの要請に基づいて構築される点や、独自アルゴリズム「TAIZA」による最適化は強みとなりますが、もし当該顧客の需要変動や、予想される需要の伸びが鈍化した場合、さくらインターネットと同様に投資回収期間の長期化や遊休資産のリスクに直面する可能性があります。一方で、NVIDIAの最新GPUをいち早く導入し、欧州市場への戦略的拡大も進めている点は、今後の成長に向けた大きなポテンシャルを秘めていると言えるでしょう。
業界全体としては、2024年前半にピークを迎えたGPU需要が一服し「一時的な伸び悩み局面」に入る可能性が指摘されています。特に生成AIの商用展開が想定より時間を要した場合、GPUクラウド各社が当初見込んだ稼働率に届かず売上計画未達に陥るリスクがあります。
このリスクを踏まえ、サービス提供各社は用途開拓(企業のPoC支援や教育機関との連携など)による利用率向上や、柔軟な料金プラン設定による需要喚起策を講じることが重要となります。実際、国内ではGPUホスティングサービスがPoC用途で利用され、新規参入ベンダーも増えてきたとされ、今後もサービス多様化で需要を掘り起こせるとの見方もあります。
需要側でも生成AI活用が広がれば再び逼迫する局面が来るため、短期的な需給ギャップに各社がどう耐え、次の需要拡大に備えるかが問われる局面といえるでしょう。
投資家・アナリストの反応:株価動向とIRの変化
生成AI関連の特需を背景に、日本のデータセンター関連株は2023年末から2024年前半にかけて急騰し、大きな注目を集めました。代表格のさくらインターネットの株価は、2024年前半に1000円台から1万円台へ急騰し、3月には上場来高値の10,980円を付けています。これは生成AI需要拡大への期待と、政府の「ガバメントクラウド」案件で同社が採択されたことなどが材料視されたためです。
しかし急騰後は過熱感から調整局面に入り、2025年半ばには3,000~4,000円台まで下落していました。そうした中で発表された今回の業績下方修正は市場に大きな衝撃を与え、発表翌日の同社株価は前日比700円安の2,970円とストップ安に張り付く展開となりました。
投資家の間では「生成AI特需に陰り」との見方が広がり、一時的に関連銘柄全般が売られる場面も見られました。
データセクションの株価も、AIデータセンター事業への積極的な姿勢やNVIDIA製GPUの調達成功といったニュースを受けて、市場で大きく注目されています。特に最新のNVIDIA B200 GPUの導入発表は、同社の技術力と事業展開への期待を高め、株価に好影響を与えましたが、その一方で巨額投資に伴うリスクも投資家によって注視されることになります。
もっともアナリストは、さくらの減速は特定顧客依存による個別要因が大きく、直ちに業界全体の需要崩壊を示すものではないと分析しています。例えば、マネーポストの投資コラムでは「さくらは主導的ポジションゆえ先行して株価が乱高下したが、再び吹き上げてもおかしくない」とされ、今回の調整は過熱感の是正との指摘もあります。
一方で、GPUクラウドを手掛ける他の上場企業についても投資家の目線がシビアになったことは確かです。株式市場では生成AI関連テーマは一巡したとの声もあり、各社のIR姿勢にも変化が出ています。具体的には、今後の決算説明会などでGPU関連事業の受注動向や設備稼働率について詳しく説明を求められる可能性が高いでしょう。
既にGMOインターネットはプレスリリースで「多くのAI開発基盤として採用され需要拡大が見込まれる」とGPUクラウドの好調さを強調しており、IIJも「生成AIのデータ処理需要増加を見込み施設を拡張した」と発表しています。
データセクションも、B200 GPUの調達状況や、大阪スーパークラスターの進捗、そしてスペインでのデータセンター計画の具体化など、今後の投資家への情報開示がより重要となるでしょう。
今後はこれらが計画通り収益寄与するかを株主が注視しており、各社は進捗を適宜開示していく必要があるでしょう。
業界全体の構造的課題か、個別要因か
今回浮上したリスクが業界全体の構造的なものか、それとも個別企業の要因に起因するものかを見極めることは重要です。分析すると、両面の要因が複合的に存在すると言えます。
一つは業界構造的な課題です。
日本のクラウドインフラ市場では、AWSやAzureといった米系クラウドが依然7割近いシェアを占め、国内事業者は約3割にとどまっています。
そこで政府は経済安保の観点から国内クラウド基盤強化に乗り出し、NEDO補助金による支援策(通称「クラウドプログラム」)を講じました。さくらインターネット、ソフトバンク、他2社(計4社)がこのGPUクラウド事業で補助金認定を受け大規模投資に踏み切った経緯があります。
つまり、政策主導で国内に潤沢なGPU計算資源を整備するという構造的な動きがあり、各社はそれに沿って供給能力を急拡大させました。この供給拡大は長期的には国全体のAI競争力強化に資するものの、短期的には需要とのミスマッチ(供給過剰気味)を生みやすい構図になっています。
また円安や地政学リスクでGPU調達が制約される中、限られた最新GPUを国内で有効活用する仕組みづくりも課題です。つまり業界として、「需要創出のペース < 供給拡大のペース」になりかねない構造を抱えている点は否めません。
他方で、今回のような急激な業績悪化は個別要因にも起因します。
さくらインターネットの場合、特定の大型案件に収益を依存していたため、その終了インパクトが極端に大きく出ました。同社自身「継続を見込んでいた案件が終了したため一時的に売上成長が鈍化する」と説明しており、言い換えれば顧客ポートフォリオの偏りという個社要因が大きかったと考えられます。
これは独立系で先行投資を進めた同社ゆえのリスクであり、NTTやGMOのように複数顧客・サービスに分散していれば、一案件の終了で業績が9割減となる事態は起こりにくいでしょう。
データセクションの場合も、現時点では「世界最大規模のクラウドサービスプロバイダーからの要請」という特定の顧客が前提となっているため、その顧客の動向が事業に与える影響は大きいと考えられます。
さらに言えば、生成AI用途の具体的なニーズ把握とサービス設計にも各社で巧拙の差があります。
例えばNTTは安全保障ニーズの強い金融・公共領域向けにクローズドな専有型GPU基盤を提供し始めていますが、これは汎用GPUクラウドとは異なる付加価値戦略です。
一方、さくらやGMOは不特定多数に開かれたパブリックGPUクラウドを志向しており、利用者獲得の競争環境が厳しい領域です。AWSやAzureも生成AI向けGPUサービスを提供する中、自社で差別化したサービスを創出できるかが個社の勝敗を分けます。
データセクションの「TAIZA」のような独自技術や、最新のGPUをいち早く導入する戦略は、差別化を図る上での重要な要素と言えるでしょう。さくらのケースは、競争環境下で価格・性能面の優位性を確保しつつ顧客を繋ぎ留められるかというビジネスモデル上の課題も浮き彫りにしました。
総じて、業界全体としては政策ドリブンの供給拡大と一時的需要緩慢という構造要因がありつつ、各社ごとの戦略・顧客構成によって業績への影響は千差万別という状況です。
今回の下方修正が直ちに「GPUインフラビジネスは収益化困難」と結論づけるのは早計ですが、持続的に利益を出すには需要動向の見極めと柔軟な経営判断が不可欠であることを示しています。
今後のリスクと成長可能性:日本データセンター業界の展望
日本のデータセンター業界は、生成AIブームを契機に世界的なAIインフラ競争の中で存在感を高めるチャンスを得ました。
国内市場予測でも今後数年で桁違いの成長が示唆されており、長期的な成長ポテンシャルは依然として大きいと言えます。特に医療・製造業など国内産業固有のニーズに対応した日本語AIモデル開発や、行政システムのクラウド化など国内発の需要がこれから本格化すれば、GPUインフラの活用はさらに広がるでしょう。現に政府は2023年度第二次補正予算等で国産LLM開発支援を打ち出しており、民間でも金融機関が社内GPT構築を進めるなど、実需が少しずつ芽吹き始めています。
一方、短期的には以下のようなリスク管理が業界に求められます。
- 需要予測の精緻化とアジャイルな設備計画: 需要が不透明な状況下では、一度に巨大投資をするより段階的に増設する方針が有効です。例えばGMOは需要を見極めつつH200 GPUを追加導入しており、IIJも半分のラックから運用開始して利用率を高めています。データセクションのように大規模な先行投資を行う場合は、潜在的な顧客との連携を強化し、需要の確実性を高めることがより重要となります。需給バランスを注視しながら機動的にキャパシティを調整する経営判断が重要です。
- 用途開拓と付加価値サービスの提供: 単なる計算資源貸し出しから一歩進み、ソリューション提供に繋げる動きも鍵です。たとえばマクニカ社と協業してGPUクラウド上での生成AI開発支援ソリューション提供や、大企業向けにオンプレに近い専有型クラウドを提供するなど、顧客の使いやすさ・安心感を高めるサービス展開が収益安定に寄与します。データセクションの「TAIZA」のように、GPUクラスターの運用最適化技術を提供することも、顧客にとっての付加価値となります。
- 他社・異業種との連携: 自社の強みと他社のリソースを組み合わせることで不足を補い、リスク分散する戦略も有効です。クラウド事業者同士で相互バックアップしたり、海外クラウドとのハイブリッド提案をすることで、単独で抱え込まないビジネスモデルを追求できます。データセクションのGIGA Computing Co., Ltd.とのパートナーシップや、スペインでのデータセンター計画は、国際的な連携とリスク分散の好例と言えます。
これらを通じ、日本のデータセンター各社は「一時的な冬」を乗り越え「持続的な春」へ繋げられるかが問われています。
さくらインターネットのケースは警鐘であると同時に、適切な軌道修正と戦略転換により再成長も可能なはずです。実際、同社株価が急落後も「再び吹き上げてもおかしくない」との見方があるように、市場も将来性を完全には否定していません。
総括すると、日本のデータセンター業界は生成AIという追い風を受けつつも、その風の強弱に振り回されない経営体制を築くことが今後の成長のカギです。
構造的な支援策と潜在需要を味方につけながら、個々の企業が自社の強みに根ざした差別化と慎重なリスク管理を行えば、依然大きな成長余地があります。短期的には需給ミスマッチによる揺り戻しリスクに警戒しつつ、中長期的には国内外のAI需要を取り込み新たな収益の柱を育てるチャンスが広がっていると言えるでしょう。
たとえば、データセクションのように、最新技術への先行投資とグローバルな事業展開を図る企業の動向は、今後日本のAIインフラの競争力を占う上で重要な指標となるでしょう。各社の今後の戦略に注目が集まります。