東京証券取引所(東証)は2023年12月26日、「少数株主保護及びグループ経営に関する情報開示の充実」等の資料を公表しました。この資料は、親子関係にある上場会社や持分法適用関係にある上場会社に向けた、コーポレート・ガバナンス報告書の記載指針や開示例を整理したものです。今回の取り組みは、企業に対して新たな開示義務を課すものではなく、自発的な情報開示の充実を促すことを目的としています。
公表された資料の概要
今回公表された資料は以下の3点です:
親子関係にある上場会社向けの記載ポイント
資料1では、親子関係にある上場会社や持分法適用関係にある企業を対象に、以下のような記載ポイントが整理されています。
1. グループ経営に関する考え方及び方針
- 事業ポートフォリオ戦略の基本的な考え方:
- 上場子会社の保有理由
- 他のグループ会社との役割分担や事業分野の調整
- ポートフォリオの見直しに関する方針
- グループ管理体制の基本方針:
- 上場子会社の意思決定プロセスへの関与
- 資金管理体制の方針
2. 上場子会社を有する意義
- 子会社として保有する合理性
- 上場を維持するメリットとデメリット
- 完全子会社化など他の保有形態との比較に基づく合理性
3. 上場子会社のガバナンス体制
- 役員の選解任に関する議決権行使の方針
- 役員指名プロセスへの関与方針
資料2:参考となる開示例
資料2では、具体的な企業事例を通じて、参考となる開示内容が示されています。例えば、日本電気(NEC)は、次のような方針を示しています:
- 「上場子会社としての自主性・独立性を確保し、上場を維持することがNECグループの企業価値の最大化に貢献すると判断しています。」
- 事業ポートフォリオ戦略に関連し、上場子会社の意義と合理性を具体的に記載しています
資料3:独立社外取締役の役割
支配株主を有する上場会社における独立社外取締役の役割についても整理されています。独立社外取締役は、少数株主保護の観点から次のような役割を期待されています:
- グループ経営の透明性確保
- 利益相反リスクが生じる取引における監視
- 特別委員会への参加や意思決定支援
TOBの可能性
今回の資料は、新たな規制を課すものではなく、上場企業による自主的な情報開示の強化を促進するものです。この取り組みを通じて、少数株主の利益保護や企業統治の透明性向上が期待されています。
東証の取り組みは、親子関係にある上場会社や持分法適用関係にある企業にとって、少数株主保護を重視した経営を行うための指針となります。企業はこれを参考に、コーポレート・ガバナンス報告書の内容を充実させ、投資家からの信頼を向上させることが求められます。この動きが日本市場全体の信頼性を高め、持続可能な成長に寄与することが期待されます。
一方で東証が求めるこのような指針に対応していくことが難しい親子上場をしている上場会社は、親会社がTOBをするケースも増えてくると思います。
なお、この記事からわかることとしては
- 東証が求める「少数株主保護及びグループ経営に関する情報開示」をできない会社はTOB候補になりやすい
ということになるかと考えていますので、親子上場している会社の開示資料を今後調査していきながら各社の方針を確認していく予定です。
TOBをする場合、基本的にはプレミアムをつけた株価で親会社が買い取るケースがほとんどですので、投資家にとってもTOBの可能性がある銘柄に戦略的に投資していくことも1つの選択肢だと思います。このサイトではTOBについての研究を深めていくなかで、投資銘柄の1選択肢としてTOB銘柄の可能性を探っていきたいと思っています。