【TOB事例】清水建設、日本道路にTOBで完全子会社化へ – 親子上場解消の背景と今後TOB可能性がある企業3選

【TOB事例】清水建設、日本道路にTOBで完全子会社化へ – 親子上場解消の背景と今後TOB可能性がある企業3選

清水建設(1803)日本道路(1884)に対して株式公開買付け(TOB)を実施し、完全子会社化を目指すことを発表しました。日本道路は清水建設の持分法適用会社(議決権所有割合50.11%)でしたが、今回のTOBによりグループ内の経営資源を一体運用し、迅速な意思決定や協業シナジーの強化を図る狙いです。

本記事では、このTOBに至った背景や概要、親子上場企業がTOB対象となる特徴、そして同様のケースが想定される企業例に触れながら解説します。

TOBに至った背景

長年の資本関係と業界動向

日本道路は道路舗装大手で、清水建設とは約70年にわたる緊密な資本関係を持ってきました。1954年に清水建設が日本道路株の約25%を引き受けて以降、同社は清水建設の持分法適用会社として協力関係を築いてきました。この間、日本道路は自治体や官公庁向け工事を中心に実績を積み、1971年から東証一部(現プライム市場)に上場していました。

一方で清水建設は総合建設業者として成長し、2019年策定の中期経営計画や**「スマートシティ」「海外インフラ」への展開など新分野への挑戦を進めています。近年、建設業界では道路舗装業界の再編が加速しており、業界首位のNIPPOや2位の前田道路が親会社によるTOBで上場廃止の動きを見せました。そうした環境下で業界3位の日本道路も清水建設グループ傘下を明確化する決断に至ったと見られます。

親子上場問題とガバナンス圧力

清水建設と日本道路はいわゆる親子上場の関係にありました。親子上場では、親会社が子会社の経営権を握る一方で子会社にも少数株主が存在するため、利益相反企業統治(ガバナンス)上の課題が指摘されます。具体的には、親会社が自社の利益を優先し子会社の少数株主利益を損なう恐れや、親会社出身の取締役によって子会社の独立性が確保しにくい問題です。

こうした懸念から、海外投資家を中心に親子上場への批判は強く、日本でも東京証券取引所がプライム市場上場の子会社に社外取締役過半数の設置を求めるなどガバナンス強化を促しています。2022年には清水建設による日本道路へのTOB(当時は子会社化を目的に50.1%まで持株比率を引き上げる計画)に対し、米国籍ファンドが「少数株主に不利益」とTOB延期を要請する事態もありました。

このように親子上場解消の圧力が高まる中、清水建設はグループ戦略の明確化とガバナンス向上のため、日本道路の完全子会社化に踏み切ったと考えられます。

中期経営計画とシナジー追求

清水建設は直近の中期経営計画(2024〜2026年度)「持続的成長に向けた経営基盤の強化期間」と位置付け、グループ内の事業戦略推進と技術力強化を掲げています。日本道路との協業強化はまさにこの方針に沿うものです。実際、清水建設は2022年に日本道路株の50.1%取得を目指すTOBを発表した際、「日本道路の道路舗装事業の強化や、両社連携によるスマートシティ・海外インフラ事業の拡大につなげる」とコメントしており、グループシナジーの追求が一貫した狙いであることがうかがえます。

また、親会社側にとって子会社を連結子会社化することは経営資源配分の柔軟性向上や業績の取り込みといった資本政策上のメリットもあります。清水建設は日本道路を連結子会社化することで、売上・利益を取り込むだけでなく、研究開発や人材採用面でもグループ一体で取り組める体制を整備し、将来の成長戦略を共有しやすくする狙いもあるとしています。

TOBの概要

買付価格とプレミアム

清水建設が発表したTOBの買付価格は1株あたり2,520円で、日本道路株の発表前終値に対して約2.4%のプレミアムを加えた水準です(ただし、TOB発表当日の場中に異常な急騰があったため、この急騰前の株価を前提とすると実質15~20%程度のプレミアムです)。

今回の買付期間は2025年5月15日から6月25日までと設定されており、清水建設は日本道路の発行済株式数の約49.89%(21,924,514株)すべての取得を目指します。応募下限株数は7,277,000株(発行済株式の16.56%)に定められており、応募株数がこの下限に満たない場合は買付けを行わない条件です。下限を設けた理由は、TOBが成立した場合に清水建設の持株比率が発行済み株式の3分の2超となること(議決権特別決議の成立要件)を確保するためとみられます。

なお上限は設定されておらず、応募があれば残り全株を取得する意向が示されています。これは清水建設が完全子会社化(100%取得)を企図しているためです。

経営陣の対応と上場廃止

日本道路の取締役会は、このTOBに対して賛同の意見を表明しており、事実上応募を株主に推奨しています。親会社による子会社TOBでは、独立社外取締役で構成される特別委員会の意見や少数株主保護の観点が重視されますが、日本道路側も本取引が少数株主にとって妥当であるとの判断を下した形です。

その根拠として、日本道路の株価が近年やや低迷していたこと、上場維持コストや親子上場のデメリットを踏まえて適切なプレミアムが付与されたことなどが考えられます。TOB成立後、日本道路株は所定の手続きを経て上場廃止となる予定です。上場廃止に伴い流動性は失われますが、反面親子上場問題の解消によるグループ経営効率の向上や、少数株主が市場で不当に割安評価されるリスクの解消といったプラス面が見込まれます。

資金調達と業績への影響

清水建設にとって、約219億円(発行済株式の49.89%分)の買付資金は自己資金で賄える見込みです。同社は2025年3月期決算で連結純有利子負債倍率(D/Eレシオ)0.5倍台、手元流動性も十分確保しており、キャッシュリッチな財務体質を背景に子会社化を進める形です。

もっとも一時的には自己株式取得に相当するキャッシュアウトとなるため、親会社の短期的な財務指標には影響があります。しかし中長期的には、完全子会社化で日本道路の利益を100%取り込めるようになるため、ROE(自己資本利益率)の改善や連結業績の底上げが期待できます。

また少数株主への配当支払いが不要になる分、グループ内部に資金を留保し将来投資に充当できる余地も生まれます。もっとも、買収後は日本道路を非上場化することで市場からの株価評価は得られなくなるため、グループ全体の企業価値向上策を引き続き明確に示していく必要はあるでしょう。

今回の事例から導き出せるTOB対象企業の特徴

① 親会社が一定比率を保有

清水建設と日本道路のケースでは、親会社が当初から約25%を保有し、その後50%超まで増やしてから完全子会社化に至りました。一般に、親会社が上場子会社の発行済株式の3分の1超(あるいは過半数)を保有している場合、TOBにより残りの株式を取得して親子上場を解消するハードルが下がります。親会社は既に経営権を握っているため反対買収のリスクが低く、少数株主に提示するプレミアムも自社が負担する割合を抑えられるからです。

実際、キリンホールディングスは医薬品子会社の協和キリン株を50%以上保有する筆頭株主ですが、この親子上場関係に対して海外の物言う株主(アクティビスト)から解消を求められた経緯があります。親会社が発行済株式の過半数を握るケースでは、残余株式取得による完全子会社化が選択肢として現実味を帯びるのです。

② 協業シナジー強化の戦略

親子上場解消の背景には、グループ内協業を加速させたい戦略的意図がある場合が多いです。清水建設は日本道路を完全子会社化することで、インフラ補修や都市開発分野での協働をより密接にし、受注拡大や技術開発の一体化を図ろうとしています。

同様に、多くの親会社は子会社と事業分野が近く、補完関係や垂直統合による相乗効果を期待できる場合にTOBに踏み切ります。例えば、セコムは火災報知機大手の能美防災(6744)をグループ内に持ちますが、防災事業とセキュリティ事業のシナジーを追求する観点から親子上場解消に前向きとみられます。

実際にセコムは2021年、地域子会社のセコム上信越をTOBで完全子会社化しており、その際は株価に約65%のプレミアムを乗せて少数株主に応じてもらいました。このような実績からも、親子上場を解消してでも一体運営した方が事業競争力を高められると判断されるケースでTOBが実施される傾向があります。

③ 上場維持コスト・意義の見直し

上場子会社は独立企業としてIRやコンプライアンス対応、上場手数料負担などのコストが発生します。親会社から見ると、子会社を上場させ続けるメリット(市場での資金調達や知名度向上)が薄れ、むしろグループの経営効率や機動性を損ねていると判断される場合、上場維持の意義が問い直されます。特に昨今は東証による開示要請強化やPBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業への改革圧力もあり、低評価の上場子会社はTOBで買い戻すべきとの機運が高まっています。

事実、住友電気工業は2023年に子会社の日新電機とテクノアソシエをTOBで完全子会社化しましたが、これは両社の株価が割安水準にあったことや、グループ内再編で迅速な戦略実行を可能にする目的がありました。このように低PBRや低ROEの上場子会社「上場を維持する価値より非上場化メリットの方が大きい」と判断されやすく、親会社によるTOBの候補になり得ます。

親子上場解消の可能性がある企業3選

親子上場問題や資本政策の観点から、今後親会社によるTOBが実施される可能性が指摘される上場企業を3社紹介します。いずれも東証プライム市場上場で、親会社が既に一定比率を保有し、戦略的に完全子会社化が検討され得る銘柄です。

協和キリン(4151) – キリンHDによる子会社、親子上場逆転の注目例

協和キリンは大手飲料メーカーであるキリンホールディングス(2503)が約54%の株式を保有する医薬品子会社です。医薬事業に力を入れるキリンHDにとって中核子会社ですが、2021年頃には協和キリンの時価総額が一時キリンHDを上回る“親子逆転”現象が起き、注目を集めました。

海外ファンドの提言によりキリンHDは協和キリン株の処遇を問われ、親子上場の解消(完全子会社化または持株売却)を検討するよう迫られた経緯があります。キリンHD自身もヘルスサイエンス事業強化の一環で2023年に協和キリン傘下の協和発酵バイオを子会社化するなど動きを見せており、今後グループ戦略次第では協和キリンを完全子会社化する可能性もゼロではありません。

親会社側に十分な財務余力があり(キリンHDの自己資本比率は高水準)、協和キリンの研究開発力をグループ内でフル活用したい意向が強まれば、TOB実施による親子上場解消が実現するシナリオも考えられます。ただし、協和キリンの業績次第では逆に株式売却によるグループ離脱も選択肢となり得るため、動向に注視が必要です。

参考記事【TOB候補】協和キリン(親子上場)

住友理工(5191) – 親会社がTOB実績あり、次なる再編候補との声

住友理工住友電気工業(5802)が約51%を出資する自動車部品メーカーで、自動車用防振ゴム・ホース類で国内大手です。同社のPBRは1倍未満と低く収益性指標(ROE・ROA)も高水準ではないことから、市場では株価割安な上場子会社の一つと見なされています。

親会社の住友電工は2023年に子会社の日新電機(6641)とテクノアソシエ(8249)をTOBで完全子会社化する実績を残しており、グループ内の親子上場解消に前向きな姿勢を示しました。現在、住友電工の上場子会社は住友理工と住友電設(1949)の2社がありますが、アナリストや投資家の間では次は住友理工ではないかとの声が強まっています。住友理工はEV(電気自動車)シフトに伴う自動車部品の変革期にあり、住友電工が持つ高分子材料技術やグローバルネットワークとのシナジー追求が重要となっています。

親会社による完全子会社化が実現すれば、研究開発や設備投資を一体的に行いやすくなり、グループ全体での競争力強化につながる可能性があります。住友電工は財務基盤も堅固であるため、タイミング次第では十分なプレミアムを付与したTOBを敢行し、住友理工の上場廃止に踏み切ることも視野に入るでしょう。

能美防災(6744) – セコム傘下、防災×セキュリティでシナジー期待

能美防災消防設備(火災報知機や消火設備など)で国内トップクラスのメーカーで、セコム(9735)が約51.9%の株式を保有する連結子会社です。セコムは2021年に地域子会社のセコム上信越(4342)をTOBで完全子会社化しており、親子上場解消に積極的な企業とされています。

能美防災についても、「セコムのTOB観測」は市場で度々話題に上ってきました。実際、セコムと能美防災の事業領域は防犯と防災で親和性が高く、両社の商品・サービスを統合すれば建物向け安全ソリューションの総合力が高まると期待されています。セコム本体は自己資本比率が高く潤沢なキャッシュを抱える企業でもあり、少数株主に対して十分なプレミアムを提示する余力があります。

2024年には防災関連株が政局に絡んで物色された影響で能美防災株価も上昇し、かつてほどの割安感は薄れたとの指摘もあります。しかし依然として上場子会社としての独立維持よりも、非上場化による機動的な事業展開メリットが勝ると判断されれば、TOB実施の可能性は残っています。セコムによる公式な言及はありませんが、今後の親子上場解消トレンドの中で要注目の銘柄と言えるでしょう。

まとめ

親子上場を巡る環境は大きく変わりつつあり、今回の清水建設と日本道路の事例はその象徴と言えます。一般投資家にとっては、親子上場解消の動きが企業価値や株価に与える影響を正しく理解することが重要です。

親子上場関連株は「いずれTOBでプレミアム獲得できるのでは」と期待して先回り買いする投資家が増えてきていると思います。実際、親子上場解消が噂されると株価が思惑で上昇することもあります。ただし、いつTOBになるか確証はなく、長期間放置される可能性や、最悪基準未達で上場廃止(TOBなしで株主が市場で売る機会を失う)リスクもあります。したがってこの手法は中長期のリスク許容度がある中級者以上の投資家向きともいえます。

当サイトでもTOB候補銘柄を紹介していますが、不確実性の高いなかでTOBだけを目的に積極的に買い向かうのは得策ではありません。TOBだけを目的にすると、TOBが実行されるまでは機会損失を被ることも多いので、必ずTOBとあわせてプラスαの材料をもつ銘柄に投資をしておきたいところです。

プラスαの材料としては、たとえば以下のようにTOBがなくても株価が上がったり、リターンが見込めるような銘柄が理想的です。

  • TOB+高配当
  • TOB+黒字化銘柄

ぜひ、「TOB+α」の銘柄を探してみましょう!

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