
今回は「伊藤忠エネクス」についてです。2025年3月時点の情報をもとにしています。
会社概要
1. 基本情報
- 証券コード: 8133
- 商号: 伊藤忠エネクス株式会社(Itochu Enex Co., Ltd.)
- 業種: 卸売業(燃料・資源)
- 設立: 1948年4月19日
- 上場: 1978年2月(東京証券取引所プライム市場)
- 決算期: 3月
- 本社所在地: 東京都千代田区霞が関3-2-5 霞が関ビルディング
- 電話番号: 03-4233-8000
- 公式サイト: https://www.itcenex.com/
2. 企業沿革
伊藤忠エネクスは、伊藤忠商事株式会社と日本鉱業株式会社(現、ENEOS)の協力のもとで、1961年に設立されました。以来、石油、ガス、電力などのエネルギー関連事業を展開し、日本のエネルギー供給に貢献してきました。
- 1948年4月: 中峯化学工業株式会社として設立
- 1976年11月: 伊藤忠燃料株式会社へ商号変更
- 1977年4月: 伊藤忠燃料株式会社(旧)を吸収合併
- 1978年2月: 大阪証券取引所、東京証券取引所第二部上場
- 1979年9月: 東京証券取引所第一部指定
- 1990年7月: 伊藤忠オイル株式会社の営業権と従業員を承継
- 2001年7月: 伊藤忠エネクス株式会社へ社名変更
- 2011年2月: 電力小売事業へ参入(アイピー・パワーシステムズ株式会社への出資)
- 2014年1月: LPガス事業をエネアークに統合
- 2022年4月: 東京証券取引所プライム市場へ移行
3. 事業領域
伊藤忠エネクスは、エネルギー供給の多角化を進めており、以下の事業を展開しています。
- 石油事業: ガソリン、軽油、灯油などの卸売・小売
- LPガス事業: 家庭用・業務用のLPガス供給(エネアークとの合弁事業)
- 電力事業: 再生可能エネルギーや工場向け電熱供給(エネクス電力株式会社)
- 産業ガス事業: 各種工業用ガスの供給(伊藤忠工業ガス株式会社)
- 海外展開: 東南アジアを中心にエネルギー事業を拡大
4. 近年の取り組み
- 再生可能エネルギーの拡充: 太陽光発電・バイオマス発電への投資
- インフラ投資: エネクス・インフラ投資法人を通じた資産運用
- DX推進: エネルギーマネジメントシステムの導入
5. 経営方針とビジョン
伊藤忠エネクスは「持続可能なエネルギー供給を通じた社会貢献」を企業理念とし、脱炭素化やエネルギーの安定供給に取り組んでいます。今後も国内外のエネルギー市場でのプレゼンス拡大を目指し、再生可能エネルギーや次世代エネルギーの開発に力を入れています。
6. 事業内容
- ホームライフ事業(8%): LPガス販売・関連サービス
- カーライフ事業(65%): 給油所(SS)運営、中古車販売
- 産業ビジネス(15%): 産業向け燃料・ガス供給
- 電力・ユーティリティ事業(12%): 電力販売、再生可能エネルギー供給
※( )内は売上構成比(2024年3月期)
7. 業績動向
- LPガスや電力販売の市場環境改善により、利益率が向上
- 産業ガス・中古車販売が好調で、営業利益が増加
- 2026年3月期には電力顧客の拡大や中古車販売の伸長が見込まれる
8. 成長戦略
- モビリティ事業: 次期中期経営計画(中計)でモビリティ領域を成長の柱に
- 給油所×中古車販売: WE CARS(旧ビッグモーター)を活用した事業展開
- 脱炭素投資: 佐賀でCO₂活用の大豆育成研究を推進
9. 主要拠点
- 支店: 北海道・東北、首都圏、関東・北陸、中部、関西・四国、中国、九州・沖縄
10. 人事・従業員
- 従業員数: 連結 5,316名 / 単体 487名
- 平均年齢: 41.8歳
- 平均年収: 993万円(2024年9月時点)
11. 財務・株式情報
- 時価総額: 燃料・資源業界内で9位(全41社中)
- 主幹事証券: みずほ証券
- 監査法人: トーマツ
- 主要取引銀行: 三井住友信託銀行、三井住友銀行、りそな銀行、みずほ銀行、三菱UFJ銀行
- 総還元性向: 43.9%(3期平均 42.1%)
- 増配回数: 9回 / 減配1回
12. 主要取引先
- 仕入先: ENEOS
- 比較企業: 岩谷産業(8088)、三愛オブリ(8097)、シナネンホールディングス(8132)
13. 主要グループ企業
- 連結子会社:
- 東京都市サービス株式会社(熱供給事業)
- エネクスフリート株式会社(給油所・カーライフ事業)
- 日産大阪販売株式会社(自動車販売)
14. 最近の動向
- 東証プライム市場へ移行(2022年4月)
- 再生可能エネルギー・電力事業強化
- 海外展開: タイ・東南アジアでのエネルギー事業拡大
- インフラ投資: エネクス・インフラ投資法人がインフラファンド市場に上場
株主構成
親会社
大株主

株価指標
- 概要
- PER:10倍程度
- PBR:1倍程度
- 利回り:約3.5~4%
- 時価総額:2,000億円程度
コーポレートガバナンス
支配株主との取引等を行う際における少数株主の保護の方策に関する指針
当社は、親会社(支配株主)である伊藤忠商事株式会社との取引・行為に係る取引条件等については、市場価格を勘案し、一般取引条件と同様に決定しております。また、市場価格が参照できない重要な取引・行為については、独立社外取締役を含む独立性を有する者で構成された特別委員会で審議・検討を行ったうえで、社外取締役及び社外監査役が出席する取締役会において承認決議を行うことにより取引の適正性を確保しております。
その他コーポレート・ガバナンスに重要な影響を与えうる特別な事情
当社の親会社である伊藤忠商事株式会社は、当社議決権53.97%を保有しており、当社は同社の連結子会社となっております。当社は伊藤忠商事グループにおける石油製品の国内販売及び日本を起点とした輸出入事業の中核会社という位置づけであり、重要なビジネスパートナーとして、石油製品等の取引、国内外の原油・石油製品市況の情報交換や人材交流、また電力や環境ビジネス、モビリティ関連、海外プロジェクト等に関する事業の取組みを推進しております。なお、当社の営業取引に占める親会社への依存度は低く、そのほとんどは一般企業及び消費者との取引になっております。また、当社は親会社による事業上の制約等はないと認識しており、自主性・自律性を確保しながら、独自の経営判断が行える状況にあると考えております。当社と伊藤忠商事株式会社及びその企業グループとの間では、出向者の受入れはありますが、社外取締役3名が独立役員として指定されており、取締役会における審議にあたり、より多様な意見が反映されうることから、独自の経営判断を妨げるものではなく独立性が確保されております。
伊藤忠エネクスに対する伊藤忠商事のTOBの可能性について
1. はじめに
伊藤忠商事株式会社(以下、伊藤忠商事)は、日本国内外で幅広い事業を展開する総合商社であり、多くの関連企業を保有しています。その中でも、エネルギー事業の中核を担う伊藤忠エネクス株式会社(以下、伊藤忠エネクス)は、伊藤忠商事の子会社として重要な役割を果たしています。
近年、伊藤忠商事は親子上場の解消や事業統合を目的とした株式公開買付け(TOB)を実施しており、伊藤忠エネクスに対しても今後TOBを行う可能性が取り沙汰されています。本記事では、過去の事例を参考にしながら、伊藤忠エネクスに対するTOBの可能性について考察します。
2. 伊藤忠商事の過去のTOB事例
伊藤忠商事は過去に複数の企業に対してTOBを実施しており、以下のような事例があります。
タキロンシーアイ株式会社(2017年)
-
- タキロン株式会社とシーアイ化成株式会社の経営統合を支援
- TOBを実施し、タキロンシーアイの経営権を確保
デサント株式会社(2019年)
-
- スポーツウェアメーカーであるデサントに対しTOBを実施
- 出資比率を引き上げ、経営方針に影響を与える立場を確保
これらの事例では、伊藤忠商事が業界の再編や経営効率の向上を目的としてTOBを実施し、対象企業の経営権を強化する戦略を取っていることが分かります。
3. 伊藤忠エネクスに対するTOBの可能性
現在、伊藤忠商事は伊藤忠エネクスの株式を53.17%保有しており、すでに過半数の支配権を有しています。完全子会社化することで、以下のようなメリットが考えられます。
(1) グループ経営の効率化
伊藤忠商事と伊藤忠エネクスの親子上場は、株主間の利益相反のリスクをはらんでいます。完全子会社化することで、意思決定の迅速化と経営資源の最適配分が可能になります。
(2) 事業統合によるシナジー
伊藤忠商事のエネルギー事業と伊藤忠エネクスの事業を統合することで、LPガス、電力、小売エネルギー事業の拡充が期待できます。
(3) 株主還元の最適化
親会社と子会社の株主間で利益の分配が発生するため、これを一本化することで、伊藤忠商事全体の資本効率を向上させることができます。
4. TOBの可能性を高める要因と阻害要因
(1) TOBを促進する要因
- 親子上場解消の流れ:近年、上場企業グループ内での親子上場解消が進んでおり、伊藤忠商事もそのトレンドに沿った対応を取る可能性がある。
- エネルギー市場の変化:脱炭素社会への移行が進む中、エネルギー事業の再編が求められており、事業統合による経営資源の最適化が必要。
(2) TOBの阻害要因
- 市場評価の問題:伊藤忠エネクスは株式市場で一定の評価を受けており、TOBによる買収コストが高額になる可能性がある。
- 既存株主の反発:現在の株主がTOB価格に納得しない場合、TOBが成立しないリスクがある。
- 独立性の維持:伊藤忠エネクスが独立した経営を望む場合、完全子会社化には消極的な可能性がある。
5. 結論
伊藤忠商事による伊藤忠エネクスのTOBは、グループ経営の最適化やエネルギー事業の強化という観点から合理的な選択肢の一つと考えられます。過去のTOB事例を踏まえると、伊藤忠商事が完全子会社化を視野に入れる可能性は十分にあると言えます。
ただし、市場評価や株主の意向、エネルギー業界の変化など、多くの要因が絡み合うため、今後の動向を注視する必要があります。今後の伊藤忠商事の経営戦略や伊藤忠エネクスの業績次第では、TOBの実施が現実味を帯びる可能性が高まるでしょう。
伊藤忠商事と伊藤忠エネクスの動向については、引き続き最新情報を追っていくことが重要です。
投資戦略
- 業績としては安定していて毎年継続的に成長していること、伊藤忠グループであること等を考えると安全に投資できる銘柄と考えられる。
- 配当利回り4%近くあり、毎年増配傾向にある
- PBR・PER指標からすると割安であり、TOB待ちをしつつ、配当をもらいながら中長期視点保有するには有効な銘柄と考える。
TOB用に証券会社をもう1つ作っておこう
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