【TOB事例】トライトのTOB概要と連想されるTOB候補銘柄3選
2025.06.10投稿

株式会社トライト TOBインタラクティブ分析レポート
カーライル・グループによる公開買付けの全貌を解き明かす
TOB概要:一目でわかるキーメトリクス
このセクションでは、本公開買付けの最も重要な数値をハイライトします。グローバル投資会社カーライル・グループによる本案件は、株式会社トライトの非公開化と、その後の企業価値向上を目的としています。提示された買付価格や市場株価に対するプレミアム(上乗せ幅)など、株主の皆様の判断材料となる基本情報をまずご確認ください。
公開買付価格
880円
/ 株
プレミアム (対2/5株価)
110.53%
憶測報道前の終値418円に対して
公開買付期間
2025/6/11 ~ 7/23
(30営業日)
案件概要:誰が、何を、どのように
本公開買付けの基本的な枠組みと当事者について解説します。買収目的で設立されたTCG2505株式会社(実質的にはカーライル・グループ)が、医療・福祉分野の人材サービスで高い実績を持つ株式会社トライトの非公開化を目指します。ここでは、TOBの主要な条件を一覧で確認できます。
公開買付者 | TCG2505株式会社(カーライル・グループ傘下のSPC) |
---|---|
対象者 | 株式会社トライト(証券コード: 9164、東証グロース) |
買付価格 | 普通株式1株につき 880円 |
買付期間 | 2025年6月11日 ~ 2025年7月23日(30営業日) |
買付予定数の下限 | 6,666,700株 (所有割合6.67%) |
買付予定数の上限 | 設定なし(完全子会社化が目的のため) |
決済の開始日 | 2025年7月30日 |
公開買付代理人 | 野村證券株式会社 |
価格分析:提示価格は妥当か?
本TOBの買付価格880円がどのように評価されるべきか、2つの側面から分析します。一つは、過去の市場株価に対する「プレミアム(上乗せ幅)」です。もう一つは、第三者算定機関が算出した「株式価値の理論的範囲」との比較です。これらのグラフを操作して、価格の妥当性をご自身でご確認ください。
市場株価へのプレミアム率
第三者機関による株式価値評価
取引の仕組み:完全子会社化への道のり
本取引は、単なるTOBだけでなく、その後に続く手続きを経て株式会社トライトの完全子会社化と上場廃止を目指すものです。このセクションでは、その多段階のプロセスを視覚的に解説します。TOB、スクイーズアウト(少数株主からの株式取得)、そして主要株主との別契約という、巧みに設計されたスキームの流れを追うことができます。
第1段階:公開買付け (TOB)
カーライルが一般株主から市場外で株式を買い付ける(価格: 880円/株)。主要株主LSDH社(60%保有)は応募しない。
第2段階:スクイーズアウト
TOB後、応募しなかった少数株主の株式を、株式併合という手法を用いて全て取得する。対価はTOB価格と同等の金銭が交付される予定。
第3段階:主要株主からの相対譲渡
スクイーズアウト完了後、主要株主LSDH社から残りの全株式を事前に合意した価格(870円/株)で相対取得する。
完了:完全子会社化 & 上場廃止
全株式の取得が完了し、トライトはカーライルの完全子会社となり、東証グロース市場から上場廃止となる。
背景と目的:なぜ今、非公開化なのか
このTOBは、買収側と対象側の双方に戦略的な意図があって実現しました。カーライル(公開買付者)はなぜトライト社に投資するのか。一方、トライト社はなぜ上場から約2年という短期間で非公開化の道を選ぶのか。両社の視点から、今回のディールの背景にある事業環境の変化と将来への狙いを解説します。
公開買付者(カーライル)の狙い
- 成長市場への投資: 医療・福祉分野の人材不足という社会課題を解決する事業の成長性に着目。
- 非公開化による経営改革: 短期的な市場評価に捉われず、中長期的な視点でのDX投資やM&Aを迅速に実行できる経営体制を構築。
- 価値向上策の実行: カーライルのグローバルな知見やネットワークを投入し、マーケティング高度化、M&A戦略、人材組織強化を支援。
- 実績と信頼: トライト社の持つ200万人超の求職者データベースと優れたオペレーションを高く評価。
対象者(トライト)の決断
- 想定外の競争激化: 上場後に人材獲得競争が激化し、当初の事業計画の前提が変化。
- 大胆な投資の必要性: 競争優位を維持・拡大するため、DX・IT活用、M&A推進に大規模な先行投資が不可欠と判断。
- 株主利益との両立の難しさ: 上場を維持したままでは、短期的な利益と相反する可能性のある中長期的投資の実行が困難。
- 最適なパートナー: カーライルの支援を得ることで、必要な投資や経営改革を強力に推進できると判断。
公正性の担保:少数株主の利益は守られたか
支配株主が関与する本取引において、一般の少数株主の利益が不当に損なわれないよう、様々な措置が講じられました。ここでは、取引の公正性を担保するために実施された主要な取り組みを紹介します。これらの多層的な仕組みが、提示された条件の客観性と正当性を支えています。
① 特別委員会の設置
利益相反のない独立社外取締役のみで構成される委員会を設置。取引の是非や条件の妥当性を独立した立場で検討・交渉し、取締役会に答申。
② 独立した専門家の助言
独立したフィナンシャル・アドバイザー(三菱UFJMS証券)と法律事務所(森・濱田松本法律事務所)から、それぞれ価格算定や法務に関する助言を取得。
③ 競争的な入札プロセスの実施
カーライルを含む10社以上の候補先に打診する入札プロセスを実施。結果としてカーライルが最高価格を提示し、マーケット・チェック機能が働いた。
④ 利害関係者の排除
買付者側に籍を置く取締役は、本件に関する取締役会の審議・決議には一切参加せず、意思決定の客観性を確保。
⑤ 十分な公開買付期間
法定の最短期間(20営業日)より長い30営業日の買付期間を設定。株主が検討する時間を確保し、対抗買付者が現れる機会も担保。
⑥ 対抗提案を妨げない仕組み
より有利な条件を提示する他の買収者が現れた場合に、トライト社がその提案を検討することを制限するような合意は一切ない。
今回のTOBから連想されるTOB候補銘柄
リビングプラットフォーム(7091)
- 所属業種・事業内容: 介護・障がい者支援・保育事業を主軸とするサービス業。リーズナブルな価格帯の介護施設などを全国展開し、事業承継により規模拡大を図っている。
- 主要株主構成: 米投資持株会社(株)HCA が議決権比率54.23%を保有し筆頭株主。社長の金子氏が19.69%と続く。HCAはPEファンドの関連会社と見られ、少数株主を排除し非公開化を進める余地がある。
- 株価・業績概況: 2024年初頭の株価約1,460円(分割後)から年末に約876円まで大幅下落。直近も約900円前後で推移している。直近決算では、経常利益が前年同期割れとなるなど、収益面はやや低調。
- TOB候補と推測される理由: PE系HCAが過半数超を握る支配構造であり、現在の株価はピーク時の6割水準と割安感も強い。介護業界の事業再編需要や、HCAを介した経営権の完全取得・非公開化ニーズがあるとみられる。株価下落が続く中で、外部PEが追加取得やMBOを仕掛ける余地が大きいと考えられる。
Appier Group(4180)
- 所属業種・事業内容: 情報・通信業(AIマーケティングサービス)。台湾発の「AIネイティブSaaS企業」で、AIを活用した広告・顧客行動予測プラットフォーム(AdTech/MarTech)を提供し、企業のマーケティングROI改善を支援している。
- 主要株主構成: 英領バージン諸島籍投資会社Plaxie が16.79%、米VCのSequoia Capital India Investments が9.77%を保有。いずれも外部投資家で、VC/PE資金が集中している。創業者側の大株主比率は低く、外部資本依存度が高い。
- 株価・業績概況: 株価は2022年2月の上場時1500円(公募価格)前後から現在は約1,500円台で推移。大きく下落はしていないものの、上場後の売上成長に比して株価は伸び悩んでいる。業績は売上・ARRが増加傾向にあるが、赤字決算が続く状況。
- TOB候補と推測される理由: 主要株主に海外PE/VCが名を連ねるため、これら投資家が上場後の出口戦略としてTOBによる非公開化を検討する可能性がある。株価は上場価格水準で停滞しており、同社技術・顧客基盤にシナジーを見込む買手(例えば他のDX企業や大手IT)が割安感を狙ってTOBを仕掛ける余地がある。PE保有比率の高さも、MBOや株式交換による連結化の動きが生じやすい背景といえる。
あいホールディングス(3076)
- 所属業種・事業内容: 卸売業(セキュリティ機器・事務機器販売)。監視カメラやレコーダーなどのセキュリティシステム機器を開発・販売し、工事・アフターフォローまで一貫提供。また、カード発行システム等も手掛ける。連結子会社に警備会社や施設警備企業を持ち、人材・セキュリティ関連事業も展開している。
- 主要株主構成: 創業家・大株主佐々木氏が約19.3%を保有するほか、日本マスタートラスト信託銀行など信託口が複数ランクイン。近年、米投資会社「Dalton Investments, Inc.」が株式の5.02%を取得し5%ルール報告を提出。Daltonは米国PE系とみられ、経営権獲得を狙った動きと見られる。
- 株価・業績概況: 株価は直近2,300円前後(2025年6月現在)。2024年末には約2,134円と下落したが回復基調。業績は売上・利益とも安定的に推移しているものの、大きな伸長は見られない。
- TOB候補と推測される理由: 米PEのDaltonが新規参入し取得比率を増やしており、追加でTOBを仕掛けて非公開化を図る可能性がある。創業家比率は20%弱と少数派であり、外部資本による買収余地が大きい。セキュリティ・人材系事業は事業規模拡大の余地があるため、経営権を握ることでグループ再編やM&Aによる拡大を進める狙いが考えられる。