【TOB事例】JALのエージーピー株主提案に対してマッコリーが高額TOB提案で対抗!

【TOB事例】JALのエージーピー株主提案に対してマッコリーが高額TOB提案で対抗!

当記事では、空港インフラ事業を手掛ける株式会社エージーピー(AGP、東証スタンダード上場:証券コード9377)を巡る公開買付け(TOB)提案と株主提案(非公開化)について、最新の状況を中立的かつ事実に基づいて解説します。

JALによる非公開化提案の背景と内容

背景:主要株主である航空・空港3社による提案

AGPは国内主要10空港で航空機への動力電源供給や空港設備メンテナンスを担うインフラ企業です。筆頭株主の日本航空(JAL)は約30%の株式を保有し、AGPを持分法適用会社(関連会社)としています。

他にも日本空港ビルデング(羽田空港などのターミナル運営会社、約24%保有)やANAホールディングス(全日本空輸、約18%保有)といった「航空・空港3社」でAGP株式の約71%を握っています。

2025年1月、JALはAGPに対し「TOBによる非公開化」の打診を行いましたが、4月に入り方針を転換し、株主提案という形で株式併合による非公開化を正式提案しました。

この提案には日本空港ビルデングやANA HDも賛成の意向を示しており、6月26日開催の株主総会で可決を目指す構図です。

提案の内容:株式併合による強制的な非公開化

JAL提案の主軸は、AGPの既存発行株式123万5,700株(2025年3月末時点)を1株に併合するという極端な株式併合リバース・スプリット)です。これが実施されると、JAL・日本空港ビル・ANAの3社以外の全株主は持株比率に応じて端数株(1株未満の端数)となり、会社に買い取られて株主から強制的に排除されることになります

JAL提案では、この端数株の買取価格として1株あたり1,550円を設定しています。例えば100株持っている少数株主は、株式併合後に端数(0株となる)として15万5,000円(=1,550円×100株)を受け取り、上場株主の地位を失うことになります。

JALの目的:表向きは「脱炭素の促進」

JALはAGP非公開化の目的として「空港における脱炭素対応の加速」「経営資源の集中」「人材不足への対応」を挙げています。特に、航空機の地上電源を電力(GPU)に切り替えることでジェット燃料の使用を減らす脱炭素化をAGPと連携して推進するためには、資本関係を強化し非公開化して機動的に投資できる体制が必要だとJALは主張しています。

またJAL側は、「大株主との対話がAGPの方針で難しかったとし、上場維持では十分な協議ができないと示唆しています。

一方で、今年3月のJALコーポレートガバナンス報告書には「AGPの上場維持を支援する」旨が記載されていたものが、4月には突如削除されたとも指摘されており、JALの方針転換の経緯には不透明な点が残ります。

AGP側の反対意見と詳細分析(特別委員会・取締役会の見解)

AGPは4月の提案公表以降も即座には態度を明確にせず、特別委員会(独立社外取締役のみで構成)による検討や有識者によるガバナンス検証委員会の報告書を踏まえて対応を協議してきました。そして5月26日、AGP取締役会は正式にJALの株主提案に「反対」を表明し、少数株主に向け議決権行使で意思表示するよう呼びかけました。

AGP側の主張する反対理由は大きく次の4点に整理できます。

①目的の合理性に欠ける

JALは非公開化の目的を「脱炭素対応の促進」としていますが、AGP自身も再生可能エネルギー電力の供給インフラ整備やエネルギー管理システム(EMS)の開発など脱炭素施策を継続推進中であり、上場を維持したままでも十分実現可能だと指摘しています。

実際、AGPは地上電源装置(GPU)による電力供給を各航空会社に粘り強く働きかけてきた実績がありますが、JAL自身のGPU利用率は現在80%程度に留まっているとされ、AGPは「なぜJALはまず自社でGPU活用を徹底する努力をしないのか」と暗に批判しています。要するに「脱炭素化を進めるのに上場廃止(非公開化)が本当に必要なのか疑問だ」という立場です。

さらにAGP側は、JALの提案には他の具体的なシナジーや経営改善策が見当たらず、非公開化の目的そのものに合理性がないと結論付けています。

②手続きの公正性を欠く

JAL提案は公開買付け(TOB)という手順を一切経ず、いきなり株主総会での特別決議(株式併合の承認)によって少数株主を排除しようとするものです。通常、日本企業のMBO(経営陣等による株式公開買付けによる非公開化)や支配株主による子会社の完全子会社化では、まずTOBを行い市場原理で適正価格を形成した上で、最終的に株式併合等で残る少数株主を整理する「二段階買収」が一般的です。

しかしJALはこの手順を省略しており、AGPはTOBを経ないままの株式併合は少数株主の意思を無視していると強く批判しています。しかもJALは1月の最初の打診段階ではTOBによる非公開化を示唆していたのに、株主提案の直前になってTOBを取りやめ株式併合に切り替えた経緯について何ら説明しておらず、プロセスが不透明だと指摘されています。

AGP経営陣はJAL社長との直接対話を求めましたが、結局株主総会まで正式な協議の場は設けられませんでした。なぜ6月の総会で結論を急ぐのか理解できない。JAL経営陣はきちんと説明すべきだ」と、特別委員会委員長の阿南剛氏(AGP社外取締役、弁護士)は述べています。

③提案価格の妥当性がない

提示された買取価格1株1550円は安すぎるとAGP側は評価しています。

AGPが独立の第三者算定機関として岡三証券に依頼して算定した結果によれば、AGP株式の価値は「少なくとも1株1,710円以上」だというのです。

岡三証券はディスカウント・キャッシュフロー法(DCF法)を用いて評価を実施しました。DCF法とは、会社が将来生み出すと見込まれるフリー・キャッシュフロー(事業活動で得られる現金)を適切な割引率で現在価値に換算して企業価値を算出する手法です。

AGPの場合、2026年3月期から2031年3月期までの5年間の事業計画(AGPが自社で策定した中長期計画)や2025年3月末時点の財務情報等を前提に、将来の収益見通しを織り込んで試算した結果、1株あたり1,710円が評価の下限値となったと報告されています。【※評価額には上限値・中央値も示されていますが、JAL提案の1550円は最低評価額の1710円を大きく下回る水準でした。】

さらに特別委員会も答申書の中で「株主提案の株価は適正と言えない」と明言し、1550円にはAGPの将来の収益性や本源的価値が適切に反映されていない可能性が高いと指摘しました。実際、AGPの業績はコロナ後の航空需要回復で直近2025年3月期は売上・利益とも大幅増となり、また国内空港以外の新規プロジェクトも複数進行するなど事業領域を拡大しています。

こうした中長期的な成長期待が1550円には織り込まれていないことは明らかだとAGPは強調しています。

④中立性・ガバナンス上の問題

AGPは成田・羽田・関西など日本主要空港で幅広いサービスを提供する「公共性の高いインフラ企業」であり、その使命は「特定の航空会社に偏らず公平・中立なサービスを提供すること」にあります現状でもAGPの主要顧客にはJALやANAだけでなく他の国内航空会社、外国航空会社、さらには複数の空港運営会社が含まれています。

AGP自身、「当社は単なる設備会社ではなく、日本の航空業界全体の公正な発展を支える基盤だ」という自負を示しています。ところが、利用者である航空会社が実質的な支配株主の地位につくと利益相反が生じて中立性が揺らぐリスクがあります。

例えば、空港設備への投資判断や運用方針が特定の大株主(航空会社)の都合で左右され、他の顧客である航空会社や空港の利益を損なう恐れがあるのです。現にAGPの株主構成は2019年以降、三菱商事に代わってJAL・ANA・日本空港ビルの業界3社が大株主となり偏重しているため、AGPはこの数年間、3社に対して株式保有比率の引下げ(株式売却)を要請してきた経緯があります。

そうした中で今回JALが逆に完全子会社化(非公開化)を図る動きは、「公共インフラの中立性を軽視しガバナンスに反する」としてAGPが強く懸念を示す理由の一つになっています。

以上のように、AGP取締役会は「JAL提案は企業価値向上の合理性がなく、手続も価格も少数株主に不公平で、当社の公共性・中立性を損ねる恐れがある」と総合的に判断し反対している状況です。

AGPは株主総会に向けて独自に「MoM(マジョリティ・オブ・マイノリティ)」議案も導入しました。MoMとは「少数株主の過半数による承認」を意味し、法的拘束力はありませんが少数株主の声を公式に記録するための決議です。

AGPはJAL提案とは別にこのMoM議案で少数株主の賛否を集計し、仮に少数株主の多数が反対であった場合にはJAL提案可決後でも何らかの歯止めになるようアピールする狙いです(※もっとも、法定上はJAL側の71%賛成で株式併合は可決・実行可能であり、MoM議決はあくまで意思表示の場に留まります)。

マッコーリーによるTOB提案(1株2015円)の内容と評価

豪州マッコーリーの突然の対抗提案

情勢が一変したのは2025年6月20日でした。AGPは同日、オーストラリアの金融大手マッコーリー・グループ傘下のインフラ投資ファンドから「AGP株式を1株あたり2,015円で公開買付け(TOB)する意向表明書」を受領したと発表しました。

この提案価格2,015円はJAL提案の1,550円を30%以上も上回る水準で、AGP側も「JALによる非公開化の買取価格1550円を大幅に上回る」と明言しています。提案書には「JAL、日本空港ビル、ANAを含む全株主に対するTOB提案」であることが明記されており、実現すれば少数株主のみならず主要株主3社も等しくTOBに応募(株式売却)する機会が与えられる内容です。

実際、マッコーリー側はこの提案書の写しをJAL・JAT・ANAの3社にも送付済みとのことです。

提案の性質:対抗TOBとしての意味合い

マッコーリーによるTOB提案は、タイミング的にも明らかにJALの非公開化策に対する「ホワイトナイト」的な対抗案と位置付けられます。

JAL提案ではTOBが行われなかったため、市場で価格競争が起こる余地がありませんでした。しかしマッコーリーはあえてプレミアムの高い買付価格を提示し、少数株主にとってより有利な選択肢を提示した形です。

提案発表を受け、AGPの株価は6月20日終値で1,930円まで急騰しました(同日午前の終値は1,540円)。これは市場が2,015円TOBの実現可能性や、少なくともJAL案1550円では安すぎるという見方を強めたことを示唆しています。

提案内容と評価ポイント:

  • 全株主を対象 – マッコーリーの提案は全ての株主から株式を取得し、AGPを完全買収することを目指すものです。JAL提案が少数株主だけを排除するスキームだったのに対し、マッコーリー案は「支配株主3社から少数株主まで平等に買い取り対象」としています。これは少数株主にとって公正であるだけでなく、JAL・ANA・日本空港ビルに対しても「あなた方も2,015円で持株を売却してはいかがか?」と呼びかける内容で、事実上JAL側にExit(売却)を迫る提案とも言えます。
  • 買付価格の妥当性 – 2,015円という価格水準は、前述の第三者算定によるAGP株評価の中央値(約2,000円)をほぼ上回る水準と見られます。JAL提案の1,550円が「最低評価額1,710円を大幅に下回る」安値でしたから、それと比べれば極めて魅力的なオファーです。株式市場でも、マッコーリー提案後のAGP株価が1,930円前後と2,015円に迫る水準まで買われていることから、市場参加者は「2,015円ならAGP株を売ってもよい」と判断しているとも言えます。
  • インフラファンドによる長期投資の可能性 – マッコーリー・グループは世界的に有名なインフラ投資会社で、日本を含むアジア太平洋地域の社会基盤事業に積極投資しています。AGPのような空港関連事業はインフラファンドにとって重要な投資対象であり、マッコーリーはAGPの企業価値や成長余地を高く評価している可能性があります。提案段階では詳細なTOB目的は明らかにされていませんが、背景には「日本の空港インフラ事業への長期投資機会」としてAGPに着目したと推測されます。
  • 提案の実現性と条件 – 現時点(6月20日発表時点)では、この2,015円TOB提案は「意向表明」であって法的拘束力のない段階です。AGP取締役会は6月19日の会議でこの提案を正式に検討開始することを決議し、マッコーリー側の同意を得て社名や価格を速やかに公表しました。今後実際にTOBを実施するには、マッコーリー側が詳細条件(買付予定株数や期間、成立条件など)を詰めた上で正式に公開買付けを公告する必要があります。注目すべき点は、マッコーリーがTOB成立条件として何を設定するかです。通常、全株取得を目指すTOBでは最低成立ラインを「発行済株式数の○%応募」などと決めます。今回のように主要株主が大半を占めるケースでは、JAL・ANA・JATの協力なくして過半数取得は困難です。仮に少数株主の持分約29%がすべて応募しても、JAL側3社が一切応じなければマッコーリーの持株比率は29%に留まり、経営権は握れません(JAL側は依然71%を保有)。そのため、マッコーリーがTOB成立条件を「過半数取得」や「2/3取得」など高めに設定した場合、JAL側3社からの応募がなければTOB不成立となるリスクがあります。一方でJAL側も自社案が否決された場合には、2,015円での売却を検討する可能性もあります。マッコーリー提案はあくまで敵対的というより「ホワイトナイト的」な色彩が強く、JALやANA、日本空港ビルに対しても合理的なエグジット機会を提供するものとも受け取れます。今後、

マッコーリーが正式TOBに踏み切るか、またJAL側がそれに応じるかが焦点となります。

AGPの現在の企業価値と事業戦略のポイント

DCF評価による企業価値レンジ

前述したように、AGPは第三者評価で1株あたり1,710~2,295円程度の評価レンジ(中央値付近は約2,000円)との算定結果を得ています。この評価はDCF法に基づき、AGPが策定した5カ年の事業計画(2026年3月期~2031年3月期)を反映して算出されました。事業計画には、足元で好調な業績のトレンドや、今後予定している環境対応投資(脱炭素関連)などの新規投資案件も織り込まれており、将来のフリー・キャッシュフロー創出見込みを合理的に予測したものです。

評価の下限値1,710円は、JAL提案の1,550円を約10%上回ります。裏を返せば、JAL案の1550円ではAGPの本源的価値を反映しきれていない(少なくともあと10%以上高くてもおかしくない)ということになりますc

2026年以降の成長見通し

AGPの将来展望として特筆すべきは、航空需要回復とインフラ投資需要の拡大です。2024年度・2025年度とコロナ禍からの旅客回復に伴い、空港関連需要が増加してAGPの収益も大きく伸びました。

さらに中期以降(2026年~)は、空港の脱炭素化ニーズに対応した新規設備導入や、老朽化した空港設備の更新需要が見込まれます。

AGPは国内空港で蓄積した技術やノウハウを活かし、海外空港や他インフラ分野への事業展開も模索しています。実際、国内空港以外のプロジェクトも進行中とされており、事業領域の拡大による成長余地があります。こうした将来の成長期待を考慮すると、目先の収益だけで算定された1550円では不十分であり、少数株主がそのポテンシャルを手放すには惜しい状況と言えます。

「公共インフラ企業」としての中立性と戦略

AGPの企業戦略上重要なのは、環境社会に貢献する空港インフラ事業者としての立ち位置です。同社の企業スローガンは「空を想い、技術を極め、環境社会を創る」であり、空港におけるCO2排出削減省エネ・効率化をビジネスの軸としています。具体的な事業は大きく3本柱で、

  • (1)航空機への動力供給事業(国内10空港でのGPU電力供給等)
  • (2)エンジニアリング事業(搭乗橋や手荷物搬送設備等の保守整備)
  • (3)商品販売事業(機内食カートの保温・冷蔵機材や航空機地上支援機材の販売)

となっています。

売上構成はエンジニアリング約50%、動力供給約40%で後者は将来の脱炭素ニーズ拡大で成長が期待されます。

AGPは自社を「すべての航空会社に公平かつ中立なサービスを提供する使命を負った空港インフラ企業」と位置付けており、その公共性を重視しています。現経営陣は、JALやANAといった特定株主の意向だけでなく、空港全体・業界全体の発展を見据えた中立的な経営判断を行うことが企業価値向上に繋がると考えています。

このため前述のように、AGPは株主構成の偏りにも注意を払い、業界3社に持株比率の引下げを要望してきた経緯があります。AGPの事業戦略においては、株主資本政策も企業価値と深く関わっていると言えるでしょう。

少数株主にとっての選択肢と考慮点

JAL提案とマッコーリー提案という両極のオプションが出現したことで、AGPの少数株主は難しい判断を迫られています。それぞれの選択肢と、考慮すべきポイントを整理します。

選択肢1

JAL提案(1550円での株式併合による売却)を受け入れる

メリット 速やかに現金化できる(2025年内に1550円/株で確定的に精算される見通し)。提案可決後は自動的に実行されるため手続きの手間はない。
デメリット 価格が割安である可能性が高い(上記の通り評価価値1,710円~2,000円超との比較で不利益)。今後のAGPの成長果実を放棄することになる。支配株主側に有利なスキームであり、少数株主としての意思は反映されていない形となる。

選択肢2

株主総会でJAL提案に反対し、権利を行使する

株主総会で反対票を投じても可決を阻止できない可能性が高い(JAL側が71%の議決権を握るため形式上は可決可能)。しかし、会社法上の少数株主保護制度を活用する道があります。具体的には、(a) 株式買取請求権の行使、(b) 決議取消の訴えの提起です。

(a) 株式買取請求権の行使: 少数株主は総会特別決議に先立ち会社に対して反対の意思表示を書面通知し、当日も反対票を投じれば、会社に自己の全持株を公正な価格で買い取るよう請求できる権利があります(会社法182条の4)。公正な価格とは最終的に裁判所で判断される可能性があり、1550円より高い価格を主張して法的争いになるケースも考えられます。この手続きを取ることで、「1550円では納得できない」という意思を法的に示し、適正価格の是正を求めることができます。

(b) 決議取消訴訟の提起: 総会決議に重大な瑕疵がある場合、決議の取消を求めて訴訟提起する方法です。今回のように支配株主による少数株主のスクイーズアウトでは、手続の公正さや価格の公正さに問題があるとして司法の判断を仰ぐ可能性も指摘されています。公正なM&Aのガイドライン等から逸脱しているとの批判もあり、裁判になれば非公開化手続きに時間がかかる可能性があります。ただし法的ハードルは高く、提案自体が会社法上認められたスキームである以上、取消しが認められるかは不透明です。


メリット 1550円より高い対価を得られる可能性を模索できる。少数株主として意思を示せる。
デメリット 権利行使には煩雑な手続きや訴訟コストが伴う。結果が出るまで流動性を失い、最終的に1550円据置きとなるリスクもある。

選択肢3

マッコーリーのTOB(2015円)に応募する
(※こちらは前提条件:JALの株式併合提案が否決され、AGPが上場維持となることが必要です。提案可決の場合、TOB実施前にAGPが非公開会社となってしまうためです。)

仮に株主総会でJAL提案が否決された場合、マッコーリーは提案通りTOBを正式に実施する可能性が高いでしょう。少数株主にとって2,015円での現金化は魅力的な選択肢です。

メリット 提案中では最も高い価格(2015円)で持株を売却できる機会。TOB期間内に応募すれば市場で売るのと同様に現金化が可能。株式市場で株価が提案価格に連動するため、TOB成立しなくとも株価水準の底上げ効果が期待できる。
デメリット TOBが成立する保証はない(JAL側大株主が応じず成立条件に満たない可能性)ため、局少数株主が売却できないリスクがある。また、TOB不成立で再度株価が下落する恐れもある。ただし応募が殺到すればマッコーリーが条件を変更したり再提案する可能性もゼロではありません。

選択肢4

上場維持(JAL提案否決)後も株式を保有し続ける

AGPが上場維持となり、JAL提案が撤回・否決されれば、引き続き株主として企業価値向上を見守る選択です。マッコーリーが議決権を取得する形になれば、新たな大株主として企業価値向上策が打たれる可能性もあります。

メリット AGPの将来成長による株価上昇や配当など長期的な利益享受を目指せる。JAL主導より資本市場の規律が働きやすく、株主としての発言権も残る。
デメリット 短期的には1550円や2015円といった具体的リターンが得られず、株価が低迷するリスクもある。JALが再度提案を仕掛ける可能性や経営の不安定要素が残る。

以上のように、少数株主にとって最も有利なのは現時点ではマッコーリー案(2015円)ですが、実現にはハードルがあることに注意が必要です。一方、JAL案は確実性が高い反面、対価水準や手法に不満が残ります。どの選択肢にも一長一短があるため、自身の投資方針(短期での利益確定か、長期保有か)やリスク許容度に応じて判断する必要があります。

今後のTOBの行方と6月26日株主総会に向けたシナリオ

議決権構成と総会の見通し

2025年6月26日に開催予定のAGP定時株主総会が大きなヤマ場です。前述の通り、JAL・日本空港ビル・ANAの3社で約71%の議決権を握っており、これらが足並みを揃えて賛成すれば特別決議要件(議決権の2/3以上)を満たし株式併合は可決します。

JALによれば、日本空港ビル・ANAも既に提案賛成の意思を示しているとのことで、表面的には可決の公算が極めて高い状況です。したがって、少数株主がどんなに反対票を投じても、純粋な票数計算ではJAL提案が可決されてしまう構造と言えます。

しかし、AGPが導入したMoM(少数株主多数決)議案や、世論・機関投資家の反応次第ではシナリオが変化する可能性もあります。仮に少数株主の大半(たとえば全体の25%前後)が反対し、MoM議案でも「反対多数」という結果が出れば、JAL側3社に心理的・レピュテーショナルな圧力がかかります。

近年の日本市場では、支配株主による不公正なM&Aには機関投資家や他の株主から厳しい目が向けられる傾向が強まっており、コーポレートガバナンス上の批判も無視できません。JALは6月6日に自社見解として「TOB前置やMoM条件を付さないのは一般的な実務慣行に沿う」などと反論しましたが、果たして市場関係者がこれを是認するかは不透明です。

シナリオ1JAL提案が可決された場合

最も可能性が高いシナリオです。

この場合、AGPは速やかに株式併合の手続きに入るでしょう。提案どおりなら2025年10月1日付で株式併合を実施し、JAL・JAT・ANA以外の全株主の保有株を1550円で買い取ることになります。これによりAGP株は上場廃止となり、同社はJAL等3社のみが株主の非公開会社となる見込みです。

もっとも、可決直後から少数株主による株価算定の訴訟(価格決定申立)など法的プロセスが進行する可能性があります。仮に裁判所が「1550円は公正価格ではない」と判断すれば、価格の修正が命じられるケースもあり得ます(過去の事例では裁判所が価格を引き上げた例もあります)。

JALとしては、迅速に非公開化を完了し航空・空港連携を深めたい狙いですが、法的係争による時間の不確実性は残るでしょう。また、マッコーリーによるTOB提案はこのシナリオでは原則成立しません。JAL提案可決後はAGPが上場廃止手続きに入るため、マッコーリーは正式TOBを断念する公算が大きいです。

ただし、マッコーリーが保有株主に転じて裁判に参加(価格交渉への介入)したり、JAL側に対し別途株式買収の交渉を持ちかける可能性は残ります。例えばJALが非公開化完了後にマッコーリーへ株式を売却して資本業務提携する、といったシナリオも絶対にないとは言えませんが、現時点では予想の域を出ません。

シナリオ2JAL提案が否決された場合

少数株主や議決権行使助言会社の反対推奨などで日本空港ビルやANAが態度を変えるなど、何らかのイレギュラーが起きて否決される可能性もゼロではありません。

否決となればAGPは引き続き上場を維持し、経営陣は現路線のまま事業を続けます。この場合、ッコーリーは速やかに正式TOBを発表する可能性が高いでしょう。提示条件どおり1株2,015円でTOBが開始されれば、少数株主にとっては歓迎すべき展開です。

問題はJAL・ANA・日本空港ビルの対応です。彼らは当初、AGPの将来価値を1,550円と見積もっていたわけですが、マッコーリーが2,015円を提示したことで含み益を得るチャンスが生じます。特に日本空港ビルやANAにとって、AGP株は本業と直接のシナジーが大きい資産ではないため、2,015円での売却益確定は株主価値向上に資するとの判断があれば、応募に応じる可能性もあります。

一方JALはAGPを戦略子会社と位置付けてきただけに簡単には手放さないでしょう。しかし、仮にANAや日本空港ビルがTOBに応じればJAL単独では持株比率が29.6%に低下し、マッコーリーが過半数株主になる可能性も出てきます。その場合、JALとしては経営権を失うリスクから一転、マッコーリーとの協調や持ち分売却を再考せざるを得なくなるでしょう。

否決シナリオでは、AGP株の市場価格も2,000円前後で安定推移する可能性があります。株主にとっては選択肢が広がり、より公正な条件で企業価値を反映した形での資本政策が議論される展開となりそうです。

シナリオ3株主総会前にJAL提案撤回・修正の可能性

現時点ではJALは提案を強行する構えですが、総会直前になって情勢が変われば提案を撤回または修正する可能性もわずかながらあります。例えば主要機関投資家から猛烈な反対の声が上がった場合や、マッコーリー提案に賛同する株主が多数いることが判明した場合、JALが提案を取り下げて協議の時間を設ける選択肢も考えられます。

または、1550円ではなく対抗案に匹敵する価格への引き上げや、TOBの実施を経てから株式併合するよう条件を緩和する修正を行う可能性も理論上はあります。もっとも6月26日という日程が迫る中で、そのような提案修正には極めてタイトな時間しか残されていません。JAL側としては、一旦可決させた上で状況に応じ柔軟に対応するといった後手に回る戦略を取るかもしれません。株主としては、総会までのJAL・AGP双方の発信に注目しつつ、直前に届くかもしれない追加情報(プレスリリースなど)にも注意を払う必要があります。

まとめ

AGPを巡るTOBと非公開化提案は、少数株主の保護と企業価値の公正な評価という観点で日本の資本市場に一石を投じています。

JALによる“トップダウン型”の非公開化策に対し、マッコーリーという第三者ファンドが“マーケット型”の対抗策を示したことで、株主にとっての選択肢が広がりました。最終的な決着は6月26日の株主総会と、その後のTOB成否に委ねられますが、いずれのシナリオでも少数株主は自らの利益を守るため、議決権行使や必要な権利主張を行うことが重要です。

AGPは空港インフラという公共性の高いビジネスゆえ、誰が株主となりどんなガバナンスが敷かれるかが今後の企業価値と業界全体に影響します。一般投資家としては、提示された事実関係や各提案のメリット・デメリットを十分に踏まえ、自分にとって最善の判断を下すことが求められるでしょう。

今回の「エージーピー TOB」をめぐる攻防は、日本企業における少数株主の扱いやM&Aの公正性を考えるうえでも注目すべきケースとなりそうです。

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