2023年3月、東京証券取引所(東証)は、少数株主の権益保護を目的に、親子上場を行う企業や持分法適用関係にある上場企業への情報開示を強化する新たな方針を示しました。この取り組みは、2023年3月期からのコーポレート・ガバナンス(CG)報告書の改訂を通じて適用されています。
今後のTOB銘柄を予測するにあたっては、この流れをきちんとつかむことで重要なので、まずは東証の方針等を確認しておきたいと思います。
背景:親子上場と少数株主保護の課題
親子上場は、親会社と子会社がそれぞれ上場している状況を指します。この構造では、親会社の利益が優先される場合があり、少数株主の利益が損なわれるリスクがあります。また、親会社が子会社の経営に大きな影響を及ぼすことで、構造的な利益相反が発生する可能性が指摘されています。
東証はこうした課題を受け、親子上場企業および持分法適用関係にある企業への情報開示を強化する方針を打ち出しました。これにより、少数株主保護の強化を図りつつ、企業統治の透明性を向上させることが目的とされています。
新たな情報開示項目
2023年3月22日に開催された研究会で、東証は具体的な見直し案を発表しました。この改訂により、親会社と子会社それぞれが以下の情報を開示する必要があります。
親会社が求められる情報開示
1. グループ経営の考え方と方針
親会社は、グループ全体の経営方針や戦略を明確に説明する必要があります。これには、事業シナジーの創出や効率的な資源配分に関する考え方も含まれます。
2. 上場子会社を有する意義
親会社は、上場子会社を保有する意義を具体的に説明しなければなりません。特に以下の観点が求められます:
- 子会社を上場させる合理性(例:資金調達の効率性やブランド価値向上)
- 構造的な利益相反リスクへの配慮と対策
- 子会社の経済的利益が外部に流出する可能性への対応
3. 子会社のガバナンス体制の実効性確保
親会社は、子会社のガバナンス体制が実効的に運用されているかを明らかにする必要があります。これには、子会社の経営陣が十分な独立性を持ち、少数株主の利益が保護されているかを含めて説明します。
子会社が求められる情報開示
4. 親会社の経営方針への対応
子会社は、親会社の経営方針や戦略をどのように受け入れ、事業運営に反映しているかを説明します。
5. 親会社からの独立性確保
親会社の影響を受けすぎないための具体的な方策を明示する必要があります。これには、経営判断の独立性を保つための体制が含まれます。
6. 少数株主保護の具体策
子会社が親会社と取引を行う際、少数株主の利益を保護するための具体的な取り組みや方針を開示します。
持分法適用関係企業への拡大
東証は、持分法適用関係(20%以上50%未満の株式を保有)にある上場企業にも、親子上場に準じた情報開示を求める方向で検討しています。
対象となる企業の状況
2022年時点で、大株主が20%以上50%未満の株式を保有する上場会社は958社に上り、全体の25.4%を占めています。この増加傾向を受け、これらの企業にも開示要請が拡大される見込みです。
開示内容と例外規定
持分法適用関係にある企業は、親子上場と同様の情報を開示することが求められます。ただし、グループ経営の状況や影響力の強さは個別のケースによって異なるため、開示が不要と判断される事項については、その理由を説明することが認められています。
期待される効果
今回の情報開示要請の強化により、以下の効果が期待されています:
- 少数株主の利益保護が強化される
- 親会社と子会社の関係性が透明化され、構造的な利益相反リスクが軽減される
- 企業統治の信頼性が向上し、投資家にとって魅力的な市場環境が整う
まとめ
新しい情報開示要請は、2023年3月期に係るCG報告書から適用されました。これに伴い、各企業は早急に対応を進めています。
東証の今回の取り組みは、少数株主保護の観点から重要な一歩といえます。企業は透明性を高め、投資家との信頼関係を築くことで、持続可能な成長を目指すことが求められています。この情報開示強化により、日本の証券市場がさらなる発展を遂げることが期待されています。
TOBの可能性
このように親子上場については、東証からのいろいろな規制が強化されるなかで、子会社側も上場したままでは東証規制に対応していくためのコストが高くなってきていることもあり、親会社がTOBをするケースが増えてきています。
TOBをする場合、基本的にはプレミアムをつけた株価で親会社が買い取るケースがほとんどですので、投資家にとってもTOBの可能性がある銘柄に戦略的に投資していくことも1つの選択肢だと思います。このサイトではTOBについての研究を深めていくなかで、投資銘柄の1選択肢としてTOB銘柄の可能性を探っていきたいと思っています。