【MBO事例】メドピアMBOの背景とMBOが起こりやすい企業の特徴から見えてくるMBO候補3銘柄
2025.05.16投稿

創業者主導で上場廃止を目指すメドピアのMBOが動き出しました。株価低迷と上場コストを背景に、1株700円のTOBで非公開化を図ります。本記事ではメドピアMBOの概要と狙いを解説し、同様にPBRが割安で経営陣の支配力が強い企業に共通する「MBOになりやすい三つの特徴」を整理。さらにその条件に合致する注目銘柄3社を紹介し、次の投資チャンスを探ります。
MBOとは何か
MBO(マネジメント・バイアウト)とは、企業の経営陣が自社の株式を買収して経営権を取得する取引を指します。一般的には経営陣(創業者や経営幹部)が買収資金の全部または一部を拠出し、会社の事業継続を前提に自社株を取得して非上場化(株式の非公開化)を目指すケースが多く見られます。つまり、現在の経営者が主体となって自社を買い戻す形態のM&Aであり、経営陣が引き続き経営に当たる点が特徴です。
MBOは通常、株式市場で公開買付け(TOB)を実施することで行われ、買付資金には経営陣の自己資金に加えて金融機関からの借入や投資ファンドからの出資が用いられることもあります。MBOによって企業は上場を廃止し、株主から経営陣主導の少数の株主へと構成が変わります。この結果、経営陣は株主の構成をシンプルにし、短期的な株価変動や株主の意向に左右されずに長期的な経営判断が行いやすくなるといったメリットがあります。一方で、買収価格の妥当性や少数株主の利益保護といった点が重要な論点となります。
メドピアMBOの概要と背景
2025年5月14日、東証プライム上場のメドピア株式会社(証券コード: 6095)は創業者で取締役会長の石見陽氏が設立した会社(NMT株式会社)によるMBOの実施を発表しました。具体的には、石見氏の資産管理会社が100%出資するNMT株式会社が公開買付けを行い、メドピアの全株式を取得して非公開化(上場廃止)する計画です。公開買付けは5月15日から6月25日までの期間で実施され、買付価格は1株あたり700円に設定されました。これは発表前日の終値(468円)に対して約50%のプレミアムとなる水準であり、メドピアの取締役会もこのTOBに賛同し株主に応募を推奨しています。石見氏は現在メドピア株の約23.04%を保有する筆頭株主であり、MBO成立後も引き続き経営を担う予定です。
MBO実施の背景として、メドピアの株価が業績や資産価値に対して低迷していたことが挙げられます。メドピアは医師向けコミュニティサービスなどを展開し、直近の通期では連結純利益約15億円を計上していましたが、2024年5月に中期経営計画を発表して以降、株価は700円を超えることなく推移し、2025年3月末には450円台まで下落していました。ちょうど5月14日には2025年9月期第2四半期決算も発表され、営業利益が前年同期比▲21.3%と減益となったことも重なり、株式市場での評価は伸び悩んでいたのです。
また、東証プライム市場の上場維持基準である流通時価総額100億円に満たない状況が続いており、上場区分の維持に課題が生じていました。こうした要因が重なり、株式市場から退場して経営改革や成長投資に専念する選択肢としてMBOが選ばれたと考えられます。
今回のMBOは創業者主導でスポンサーファンドを伴わない自力MBOとなっている点も特徴的です。石見氏側は自己資本と金融機関からの借入で資金調達を行い段階的に買付価格を引き上げたとされ、当初提示された620円から交渉を経て最終的に700円で合意に至りました。最終提示額の700円は直近株価に対して大幅な上乗せとなり、過去1年間に新規参入した投資家であれば利益が出る水準(約50%のプレミアム)となっています。
一方で1年前より前からの古参株主にとっては買付価格が取得単価を下回る場合もあるため、価格交渉には難航した経緯があります。結果として、経営陣と特別委員会との交渉で少数株主にも配慮した価格が提示され、石見氏および主要株主も応募あるいは不応募の合意を行った上でTOBに臨んでいます。

MBOが起きやすい企業の特徴
メドピアの事例や近年の動向から、MBO(経営陣による自社買収)が起きやすい企業には共通した特徴が見えてきます。財務面・経営体制・株主構成の観点で、それぞれ以下の点が挙げられます。
財務面の特徴
株価が企業価値に対して著しく割安であることが多いです。具体的にはPBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る、PER(株価収益率)が市場平均より低いといった 低バリュエーション の企業は、株式市場で適正に評価されていない可能性があります。資産や収益力に比して株価が低迷していると、経営陣から見て自社株を買い戻すインセンティブが生じやすくなります。
また、安定した収益基盤やキャッシュフローを持つ企業もMBOが起きやすい傾向があります。安定収益があれば、借入による資金調達の返済のメドが立ちやすく、MBO後に財務的な無理なく経営を続けられるためです。例えばワキタは自己資本比率が約69%と堅実な財務基盤を持ち、資産に対して株価が割安(PBR約0.8倍)かつ高い配当利回りを出せるほど収益に余裕があります。このような「資産は潤沢だが株価が低迷」という財務状況は、MBOが検討されやすい条件と言えます。
経営体制の特徴
オーナー経営色が強い(創業者や経営陣の持株比率が高い)企業はMBOに踏み切りやすい傾向があります。創業家や経営陣が自社株を多く保有している場合、株価低迷による企業価値の毀損は経営陣自身の不利益にも直結するため、経営陣自ら株式を買い集めてでも企業価値向上を図ろうとするインセンティブが働きます。
また、経営陣が自社の理念や長期ビジョンを強く持っている場合、市場の短期志向や上場維持コストがその障壁になることがあります。そうした場合に「非公開化して自由度を上げ、独自戦略で経営改革や成長投資に集中したい」と考える経営者は少なくありません。実際、近年は東証がPBR1倍割れ企業に改善策を求める動きを強め、また海外投資ファンドや物言う株主(アクティビスト)の台頭もあり、経営陣へのプレッシャーが増しています。経営の独立性や自由度を確保するために上場廃止を選択肢に入れるオーナー経営者も出てきており、メドピアのケース同様「創業者が自らのビジョン実現のためにMBOに踏み切る」例が増えつつあるのです。
株主構成の特徴
経営陣・創業家に近い立場の株主が大勢を占めている企業もMBOの土壌が整っています。例えば創業家が筆頭株主となっていたり、親族や役員がまとまった株式を保有しているケースでは、MBO実施に際して反対株主が出にくく合意形成がしやすい傾向があります。また、浮動株が少なく機関投資家の持ち株比率が低い企業も、買付けに応じてもらいやすいためMBOを実現しやすいと言えます。
逆に言えば、株主構成が分散しておらず創業者グループで相当割合を握っている企業は、残りの株式を買い集めれば非公開化できるため、MBO候補として注目されます。さらに、昨今のように株主から配当や資本効率改善を強く求められている企業(いわゆるアクティビストの提案を受けている企業)では、経営陣がそれに応じる代替策としてMBOを検討するケースもあります。
ワキタでは実際に物言う株主からの提案があり、創業家が非公開化によって経営の自由度を確保する余地が指摘されています。このように「創業者による支配力が強いがゆえに、外部株主との軋轢が生じている」ような企業も、MBOに踏み切りやすい土壌と言えるでしょう。
以上のような特徴を備える企業は、「上場を維持したまま市場評価の向上を待つよりも、経営陣主導で非公開化して構造改革や成長戦略に舵を切った方が良い」と判断されやすく、MBOの候補になりやすいのです。

MBO候補銘柄3選
では、上述の特徴を踏まえ、今後MBOの対象になりやすいと考えられる上場企業3社を具体的に紹介します。それぞれ業種は異なりますが、「オーナー色が強く割安に放置されている」という点で共通しており、専門家の間でも潜在的なMBO候補として名前が挙がる企業です。
ノダ (7879)
PBR:約0.32倍、配当利回り:約5.3%と極めて割安な水準に放置されています。カタログ通販や住宅建材を手掛ける同社は創業家が経営に関与するオーナー企業とみられ、自己資本比率も高く財務基盤が安定しています。実際、専門家の分析でも「ノダ(東証スタンダード)は長年PBR1倍割れが常態化し、解散価値以下の評価しか受けていない」と指摘されており、純資産に比して株価が低迷しています。このため経営陣が株式を買い集めて非公開化し、外部の株主圧力に左右されずに資産活用や構造改革を進める可能性があると考えられます。
東証からの「PBR1倍割れ企業」への改善要請も追い風となっており、創業家主導で企業価値向上を図るMBOの候補の一つと言えるでしょう。
ウッドワン (7898)
PBR:約0.18倍、配当利回り:約2.85%と、簿価純資産の2割程度の評価しかない超割安銘柄です。ニュージーランドに自社林を持つ木材建材大手で、創業者一族の山西氏が経営を担う典型的なオーナー企業です。
実は2016年に経営陣によるMBOを試みた経緯もあり、市場では「PBR0.2倍のウッドワンは次のMBO候補ではないか」と報じられるほど注目されています。安定した資産(土地や森林資源)からキャッシュフローを生み出せる一方で株価は著しく低迷しているため、創業家が株式を買い取って上場廃止とし、低評価の是正や思い切った事業改革を狙う可能性があります。現にMBO観測から増配や自社株買いへの期待も高まっており、今後オーナー主導で非公開化に踏み切るシナリオが考えられます。
ベルーナ (9997)
PBR:約0.60倍、配当利回り:約3.38%と、こちらも基準以上の配当を出しつつ株価純資産倍率が1倍を大きく下回っています。通信販売大手の同社は、創業者の安野清氏が長年トップを務めるオーナー色の強い企業です。主力のカタログ通販事業に加え、近年はホテル・不動産事業にも進出していますが、その多角化ゆえに市場から適正な評価を得られていない面があります。
実際PERは一桁台で財務に対して割安であり、豊富な不動産含み益や余剰資金を抱えていることが指摘されています。創業家としては、株式市場の低評価や物言う株主からの要求に晒されるより、自ら買収して非上場化することで長期視点で事業構造の改革や資産価値の開放を進めたいインセンティブがあると言えます。そのためベルーナもMBOによる株式非公開化の潜在候補の一つとみられます。
まとめ
以上の3社はいずれも「創業者・経営陣の支配力が強く、事業は安定しているのに株価が割安」という共通点を持ちます。MBOが実現するかどうかは外部環境や資金調達の条件にも左右されるものの、仮に経営陣が企業価値向上のため非公開化を選択するとすれば、このような銘柄が有力な候補に挙がってくることでしょう。
今回のメドピアの事例をきっかけに、一般投資家としても「どのような企業が次のMBO候補になりうるのか」という視点で市場を見渡してみることが重要と言えます。