【TOB事例】ヒューリックによる鉱研工業へのTOB分析&大手不動産デベロッパーによるTOB候補銘柄3選
2025.06.18投稿

2025年6月16日、不動産大手ヒューリック株式会社による鉱研工業株式会社への株式公開買付け(TOB)が公表されました。
今回のTOBでは、ヒューリックが単に事業を多角化するのではなく、鉱研工業の持つ独自の掘削技術を自社の成長戦略に取り込むことで、不動産事業とは異なる非景気循環的な収益の柱を確立しようとする計算された戦略的投資と位置づけられており、その戦略的背景、取引条件の妥当性、および今後の展望を詳細に分析します。
取引の概要と主要条件
当事者と取引のストラクチャー
- 公開買付者: ヒューリック株式会社です。不動産賃貸・開発・投資を中核事業としつつ、近年はM&Aを積極的に活用して新たな収益源の構築を進めています。
- 対象者: 鉱研工業株式会社です。独自の工法を持つボーリング機器の専門メーカーであり、関連工事も手掛けています。
- 取引の目的: 鉱研工業の発行済株式の全て(自己株式および一部の譲渡制限付株式を除く)を取得し、完全子会社化することです。これにより、鉱研工業は上場廃止となる予定です。
- 取得手法: まず株式公開買付け(TOB)を実施し、その後、残存する少数株主の株式を取得するスクイーズアウト手続きを行う二段階買収を予定しています。
金融条件とスケジュール
本TOBの主要な金融条件とスケジュールは以下の通りです。
項目 | 内容 |
---|---|
公開買付者 | ヒューリック株式会社 |
対象者 | 鉱研工業株式会社 |
買付価格(1株当たり) | 764円 |
買付期間 | 2025年6月17日~2025年7月29日(30営業日) |
買付予定数の下限 | 4,240,100株(議決権割合 50.00%) |
買付予定数の上限 | 設定なし(全株取得を目的) |
買付代金(概算) | 約64.4億円 |
プレミアム | ・2025年6月13日終値(532円)に対し 43.61% ・過去1ヶ月終値単純平均に対し 47.21% ・過去3ヶ月終値単純平均に対し 60.84% ・過去6ヶ月終値単純平均に対し 60.50% |
公開買付者FA | PwCアドバイザリー合同会社 |
対象者FA | みずほ証券株式会社 |
市場の反応 | TOB発表翌日、鉱研工業の株価は買付価格にサヤ寄せする形でストップ高買い気配となりました。 |
戦略的背景:両社の狙い
ヒューリックのビジョン:不動産の枠を超えたニッチ技術の統合
今回の買収は、ヒューリックが公表している新中期経営計画(2025-2027)を具現化する動きです。同計画では、「次の10年後」を見据えた新たな収益の柱をM&Aによって構築する方針が明確に掲げられています。
これは、不動産投資のレーサムや教育事業のリソー教育といった、非中核事業の戦略的買収に見られる一貫した多角化戦略の延長線上にあります。
期待されるシナジー効果は多岐にわたります。
- 顧客網の拡大: ヒューリックが持つ大手ゼネコンやデベロッパーとの広範なリレーションを活かし、鉱研工業の工事施工事業やボーリング機器事業に新たな販路を提供します。
- グループ内需要と新規事業: 鉱研工業の卓越した掘削技術は、ヒューリックが展開する高級旅館「ふふ」シリーズの温泉掘削(過去に協業実績あり)や、物流倉庫の井戸掘削といった自社プロジェクトで直接活用されます。
- M&A実行支援: ヒューリックの豊富なM&Aノウハウと資金力を活用し、鉱研工業自身がボーリング・建設機械分野で小規模な同業他社を買収・提携する「非連続な成長戦略」を後押しします。
- 採用力の強化: プライム市場上場企業であるヒューリックのブランド力は、鉱研工業が抱える人材採用難という深刻な経営課題の解決に大きく貢献します。
- 財務・管理コストの効率化: 非上場化により、IR対応や監査等にかかる管理コストが削減されます。また、鉱研工業はヒューリックの高い信用格付け(JCR:AA-安定的)を背景としたグループファイナンスを活用でき、資本コストの低減が見込まれます。
これらのシナジーの中で特に注目すべきは、鉱研工業の掘削技術とヒューリックの新たなエネルギー戦略との連携です。
開示資料には、ヒューリックが地熱発電事業を手掛けるアストマックス株式会社と資本業務提提携を締結した事実が明記されています。日本の脱炭素化において地熱発電は重要ですが、その開発には高度な大深度掘削技術が不可欠です。
鉱研工業は、その歴史を通じて地熱・温泉開発で高い技術力を培ってきました。したがって、この買収は単なる建設関連事業の補強に留まらず、将来の成長分野であるエネルギー事業への進出に必要な技術基盤を確保するための、極めて戦略的な垂直統合と分析できます。
岐路に立つ鉱研工業:構造的課題を克服するパートナーの模索
鉱研工業は、その高い技術力にもかかわらず、自社の開示資料や有価証券報告書で示されているように、深刻な構造的課題に直面していました。
- 人的資本の危機: 従業員の高齢化に伴う熟練技術の承継問題や、建設・エンジニアリング業界における若手・中途採用の困難化という課題がありました。
- 成長の限界: 自社単独での新規案件開拓ネットワークには限界があり、非連続な成長に不可欠な大規模M&Aを企画・実行するための体制・資金力も不足していました。
- 外部環境の悪化: 近年の原材料費やエネルギー価格の高騰により、収益性が圧迫されていました。
これらの課題は、鉱研工業という一企業に特有のものではなく、日本の専門技術を持つ多くの中堅製造業・工事業が共通して抱える根深い問題です。少子高齢化というマクロ環境を背景としたこれらの構造的問題は、同社が策定した中期経営計画「STEP UP鉱研ACTIONS2025」のような自助努力だけでは、抜本的な解決が困難な状況にありました。
この状況を打開するため、鉱研工業は2024年10月に他社から受けた初期的な買収提案を契機に、資本政策の本格的な検討を開始しました。そして、自社の課題を克服し、次なる成長を遂げるためには、強力な戦略的パートナーとの連携が不可欠であるとの結論に至りました。
ヒューリックとの提携は、まさにこれらの課題に対する直接的な解決策として選択されたものであり、本取引は、企業がM&Aを外部リソース活用の手段として、内部からは解決困難な構造的問題に対処する好例と言えます。
財務・手続き面の詳細分析:買付価格とプロセスの公正性評価
価値評価と価格の妥当性
公開買付価格である1株764円は、両社がそれぞれ独立した第三者算定機関に依頼した株式価値評価の結果と比較して、その妥当性を検証することができます。
株式価値算定結果の比較(PwCアドバイザリー vs. みずほ証券)
算定手法 | PwCアドバイザリー(ヒューリック側) | みずほ証券(鉱研工業側) | 公開買付価格 |
---|---|---|---|
市場株価法 | 475円 – 532円 | 475円 – 532円 | 764円 |
類似会社比較法 | 286円 – 499円 | 180円 – 400円 | 764円 |
DCF法 | 646円 – 892円 | 334円 – 1,363円 | 764円 |
この買付価格は、直近の株価に対して43.6%から60.8%という非常に高いプレミアムを付加した水準です。このプレミアム水準は、過去の類似する非公開化案件52件におけるプレミアムの中央値と比較しても「遜色ない水準」であると評価されており、市場実勢に照らしても株主にとって魅力的な価格設定になっています。
ここで注目すべきは、鉱研工業側の算定機関であるみずほ証券が算出したDCF法による価値レンジ(334円~1,363円)が、ヒューリック側のPwCアドバイザリーのレンジ(646円~892円)に比べて著しく広い点です。
DCF法は将来の事業計画に大きく依存するため、この広いレンジは鉱研工業が単独で存続した場合の将来性に関する高い不確実性を反映しています。上限値の1,363円は、事業計画が完全に達成された場合の楽観的なシナリオを、下限値の334円は構造的課題が成長を阻害する悲観的なシナリオを示唆していると考えられます。
買付価格の764円はこのレンジの中央付近に位置しており、株主に対して、不確実な将来のアップサイドとダウンサイドのリスクをヘッジし、妥当な価値を現金で確定する機会を提供しています。これにより、事業計画達成の実行リスクは、株主からヒューリックへと移転されることになります。
取引決定への道のり:手続きの公正性の確保
本取引では、価格の妥当性のみならず、意思決定プロセスの公正性を担保するために、経済産業省の「公正なM&Aの在り方に関する指針」に沿った複数の措置が講じられています。
- 特別委員会の設置と機能: 鉱研工業は、利益相反の可能性を排除するため、独立社外取締役のみで構成される特別委員会を設置しました。この委員会には、独自のファイナンシャル・アドバイザーやリーガル・アドバイザーを起用する権限や、買収者との交渉に直接関与する権限など、実質的な権能が与えられました。
- 競争的な入札プロセスの実施(マーケット・チェック): 手続きの公正性を担保する上で最も重要な点は、鉱研工業が当初の提案を受け入れるだけでなく、積極的に対抗提案を募る「マーケット・チェック」を実施したことです。
- プロセス: 2024年10月の初期提案を受け、2025年2月から3月にかけて、9社の事業会社に戦略的パートナーとしての関心の有無を打診しました。これにより、ヒューリックを含む3社による競争入札が行われました。
- 最良・最終提案: 入札プロセスは、全候補者が最善の条件を提示する「最良かつ最終的な提案(Best & Final Offer)」の提出を求める形で進められ、ヒューリックが提示した764円が最高価格でした。
- 最終交渉: 最高価格を受領した後も、鉱研工業の取締役会は特別委員会の助言のもと、6月2日にヒューリックに対して価格の引き上げを要請しました。ヒューリックは翌3日、競争プロセスを経た価格であることを理由にこれを拒否しました。この最後の価格交渉の試みは、取締役会が株主の利益を最大化するべく受託者責任を真摯に果たしたことを示す強力な証拠となります。
- 独立したアドバイザーの起用: ヒューリック(PwCアドバイザリー)、鉱研工業(みずほ証券)双方が、それぞれ独立したファイナンシャル・アドバイザーおよびリーガル・アドバイザーを起用し、第三者の客観的な視点に基づき交渉・価値評価を行いました。
主要な取引手法と買収後の展望
買付下限50%の設定:現代の市場構造への現実的対応
本TOBの際立った特徴の一つは、買付予定数の下限を一般的な3分の2(66.67%)ではなく、過半数(50.00%)に設定した点です。ヒューリックが明示するその理由は二つあります。
- パッシブファンドの存在: ヒューリックは、株価指数との連動を目的とするため個別のTOBに応募しないことが多いパッシブ・インデックス運用ファンドが、鉱研工業の株式の約3.54%を保有していると推計しています。この事実上「固定された」株式の存在が、3分の2という高いハードルの達成を困難にします。
- 過去の議決権行使比率の分析: 過去5年間の定時株主総会における議決権行使比率の最大値が64.10%であったことを分析しました。総株式の50%を取得すれば、株主総会の特別決議で必要となる「出席株主の議決権の3分の2」を確保できる可能性が高いと判断しました。
万が一、過半数を取得してもスクイーズアウト決議が否決された場合に備え、ヒューリックは明確な代替策を用意しています。市場内での買い増しや相対取引により、決議が確実に可決される水準まで保有比率を高め、2026年末までの完全子会社化を目指すとしています。
この50%という下限設定は、取引に対する自信のなさの表れではなく、むしろパッシブ投資家の比率が高まる現代の株式市場の構造を的確に捉えた、洗練された戦術と評価できます。
伝統的なTOBの枠組みは、全株主が能動的な意思決定者であることを前提としていますが、実際には市場に大きな影響力を持たないまま存在する「物言わぬ株主」が増加しています。この現実を無視して画一的な3分の2の基準に固執すれば、大多数の一般株主が賛成していてもTOBが不成立に終わるリスクがあります。
ヒューリックは過去の議決権行使データを分析することで、より現実的で達成可能な下限を設定し、TOBの成立確度を高めています。これは応募株主の利益に資する一方、非応募株主にも公正な価格でのスクイーズアウトへの道筋を明確に示しており、現代的な課題に対する現代的な解決策と言えます。
鉱研工業の未来:非上場化後の姿
- スクイーズアウトと上場廃止: 開示資料には、買付後の保有比率に応じて、株式等売渡請求(90%以上取得の場合)または株式併合(90%未満の場合)のいずれかの手法でスクイーズアウトを実施することが明記されています。いずれの場合も、残存株主に支払われる対価はTOB価格と同額の764円であり、最終的に鉱研工業は上場廃止となります。
- 経営の自主性の尊重: ヒューリックは、買収後も鉱研工業の経営の自主性を維持・尊重する方針を示しています。具体的な経営体制は未定ですが、ヒューリックからの役員派遣は非常勤監査役1名を検討するに留まり、既存のグループ会社との統合も予定されていません。
- 従業員の処遇: 鉱研工業の価値の中核をなす専門人材の維持は不可欠であり、ヒューリックは従業員の雇用および処遇条件を原則として維持継続することを約束しています。
戦略的買収分析
ヒューリックによる鉱研工業への株式公開買付け(TOB)
不動産大手ヒューリックが、独自の掘削技術を持つ鉱研工業を完全子会社化。本インフォグラフィックは、その戦略的背景、財務的妥当性、そして未来への展望をデータに基づき可視化します。
取引概要:一目でわかる主要データ
公開買付価格(1株当たり)
764円
株主に対し、市場価格を大幅に上回るリターンを提供。
買付代金(概算)
64.4億円
ヒューリックの成長戦略における重要な投資。
上場廃止予定
✓
迅速な意思決定と非公開下での長期的成長を目指す。
価格プレミアムの妥当性
買付価格764円は、TOB発表前の各期間の平均株価に対し、43%から60%超という極めて高いプレミアムを付加した水準であり、株主価値の最大化を意図したものです。
なぜこのディールなのか?両社の戦略的意図
本買収は、ヒューリックの成長戦略と、鉱研工業が直面する構造的課題の解決という、両社のニーズが完全に合致した結果です。
ヒューリックの狙い:成長の多角化
- +販路拡大: 大手デベロッパーとの関係を活かし、鉱研工業の事業を拡大。
- +技術の内部活用: 温泉掘削や地熱発電など、自社プロジェクトで掘削技術を直接活用。
- +M&A支援: 鉱研工業自身のM&Aを資金・ノウハウ面で支援し、非連続な成長を実現。
- +人材獲得力の強化: ブランド力を背景に、技術者採用の課題を解決。
鉱研工業の課題:持続的成長への壁
- ⚠️人的資本の危機: 従業員の高齢化と、若手技術者の採用難。
- ⚠️成長の限界: 自社単独での新規案件開拓や大規模M&Aの実行が困難。
- ⚠️外部環境の悪化: 原材料費やエネルギー価格の高騰による収益性の圧迫。
戦略の核心:地熱エネルギーへの布石
この買収の真の価値は、鉱研工業の掘削技術が、ヒューリックの未来の成長エンジンである地熱発電事業に不可欠なピースである点にあります。
ヒューリック
(不動産・投資)
鉱研工業
(高度な掘削技術)
地熱発電事業
(新たな収益の柱)
価格とプロセスの公正性
第三者機関による株式価値算定
買付価格764円は、両社が依頼した独立した第三者機関による多角的な価値評価レンジを十分に考慮して決定されました。特にDCF法では、将来の不確実性を織り込んだ公正な価格設定となっています。
公正性を担保した取引プロセス
本取引は、株主利益の最大化を目指し、透明性の高い競争入札プロセスを経て決定されました。
初期提案と検討開始
2024年10月
他社からの買収提案を機に、資本政策の本格検討を開始。
マーケット・チェック実施
2025年2月-3月
9社の事業会社に打診し、競争環境を醸成。ヒューリックを含む3社が応札。
最良・最終提案の要求
2025年4月-5月
入札プロセスを経て、ヒューリックが最高価格である764円を提示。
最終交渉と取締役会決議
2025年6月
特別委員会の答申を踏まえ、取締役会が満場一致で賛同を決議。
TOBの仕組みと今後の展望
戦略的な買付下限の設定:50.00%
一般的なTOBの成立条件である3分の2(66.67%)ではなく、過半数(50.00%)を下限に設定。これは、TOBに応募しないことが多いパッシブファンドの存在を考慮した、現実的かつ成立確度を高めるための洗練された戦術です。
- ✓過去の議決権行使率の分析に基づく
- ✓取引の不成立リスクを低減
- ✓応募株主の利益を最大化
買収後のロードマップ
TOB成立後、残りの株式も同価格で取得するスクイーズアウト手続きを経て完全子会社化。鉱研工業の経営自主性と従業員の雇用は維持され、ヒューリックグループの一員として新たな成長ステージへ移行します。
STEP 1
TOB成立
(2025年7月末)
STEP 2
スクイーズアウト
(全株取得)
STEP 3
上場廃止・新体制始動
(2026年末まで)
大手不動産デベロッパーによるTOBの次なる候補となりうる3銘柄
ヒューリックの事例は、不動産デベロッパーが単なる「箱(建物)」の開発に留まらず、その箱の中で展開されるサービスや、建物を支える基盤技術を取り込むことで、企業価値を向上させる「垂直統合・多角化戦略」の好例です。
この視点を参考に「本業とのシナジーが見込めるニッチな技術・サービスを持ち、かつ構造的な課題を抱える中堅企業」というヒューリックの買収戦略のロジックに基づき、今後、大手不動産デベロッパーによるTOBの対象となる可能性が考えられる上場銘柄を3つ選定いたしました。
ライト工業株式会社 (証券コード: 1926)
- 事業内容: 特殊土木工事の専門技術を有する業界大手。「地盤改良」「法面(のりめん)対策」「グラウト(地中注入)」といった、建設プロジェクトの基礎・地盤分野で非常に高い技術力と実績を持ちます。
- 選定理由(不動産大手とのシナジー):
- プロジェクトリスクの抜本的低減と差別化: 鉱研工業が「地下を掘削する」技術であったのに対し、ライト工業は「地面を固め、守る」技術です。地震や豪雨など自然災害が多い日本において、土地の液状化対策や軟弱地盤改良は、あらゆる建設プロジェクトの根幹をなす最重要課題です。この基盤技術をグループ内に取り込むことで、開発プロジェクトの安全性・信頼性を飛躍的に高めることができます。これは、特に防災を重視した都市再開発や、複雑な地形でのリゾート開発において、他社に対する強力な技術的優位性となります。
- 「災害に強い街づくり」というブランド価値の確立: 建物の免震・制震構造だけでなく、その土地自体の強靭化を手掛けることで、デベロッパーは「災害に強い街づくり」を標榜する上での強力な裏付けを得られます。これは企業のESG評価や、物件の資産価値向上に直結する戦略です。
- 見えざる価値の事業化: ヒューリックが地熱発電に将来性を見出したように、デベロッパーはライト工業の地盤改良・注入技術を、将来の地下空間の大規模利用(地下物流網、エネルギー貯蔵、ディープジオサーマル発電など)への布石として活用する戦略的可能性があります。
能美防災株式会社 (証券コード: 6744)
- 事業内容: 100年以上の歴史を持つ防災設備のリーディングカンパニー。火災報知設備や消火設備で国内トップクラスのシェアを誇り、大規模な商業施設、高層ビル、プラント等に多数の導入実績があります。
- 選定理由(不動産大手とのシナジー):
- 建物の安全・安心価値の最大化と囲い込み: 防災設備は、あらゆる建物に必須の要素です。国内最大手の能美防災を傘下に収めることで、開発の初期段階から最新鋭の防災システムを建築計画に組み込むことが可能になります。これにより、より安全性の高い建物を効率的に開発できるだけでなく、竣工後の保守・メンテナンスという安定したストック収益を、自社グループの膨大な保有・管理物件から確実に取り込むことができます。
- スマートビルディング戦略との連携: 近年、IoTを活用した建物のエネルギー管理やセキュリティが注目されていますが、「防災」もスマートビルディングの重要な要素です。能美防災の防災システムとデベロッパーのビル管理システムを連携させれば、災害発生時の迅速な避難誘導や、被害状況のリアルタイム把握など、付加価値の高い次世代防災ソリューションを開発し、自社物件の競争力を高めることができます。
- 法規制対応とコスト管理: 頻繁に改正される消防法などの安全規制に対し、専門知識を持つグループ会社があれば迅速かつ的確に対応できます。また、防災設備の設計から施工、メンテナンスまでを内製化することで、コスト管理の精度も向上します。
三協立山株式会社 (証券コード: 5932)
- 事業内容: ビル用建材、住宅用建材、商業施設用什器、アルミ素材などを手掛ける総合建材メーカー。特に高層ビルの外壁を構成する「カーテンウォール」や、店舗用の陳列什器などで高いシェアを持っています。
- 選定理由(不動産大手とのシナジー):
- サプライチェーンの垂直統合とコスト・工期管理: ビルの「顔」となる外壁(ファサード)や内装を手掛けるメーカーをグループ化することで、開発プロジェクトの重要なサプライチェーンを内部に持つことになります。これにより、部材調達の安定化、コスト削減、工期の短縮が期待できます。
- 差別化された建築デザインの実現: デベロッパーと建材メーカーが一体となることで、意匠性の高いオリジナル建材や、環境性能に優れた次世代の外壁(太陽光発電パネル一体型など)を共同で開発しやすくなります。これにより、デザインや環境性能で他社物件との明確な差別化を図ることができます。
- 商業施設開発・運営との連携: 三協立山は商業施設の店舗什器も主力事業の一つです。デベロッパーが自社で開発・運営するショッピングセンターや駅ビルにおいて、テナントの出店・改装を迅速かつ低コストでサポートするサービスを展開できます。これにより、テナント誘致(リーシング)における競争力を高めることが可能です。